世の中に時間革命を 株式会社BearTail黒﨑氏のビジネスにおける原動力【後編】

今回は、株式会社BearTailの代表取締役・黒﨑 賢一氏にお話を伺いました。株式会社BearTail(以下、ベアテイル)は、「無駄な時間を省けるか、または今までより豊かに変えられるか」を価値の定義とし、その価値ある時間の総量が世界の人々を動かしていることの証明でありやりがいであるという理念のもと、事業を展開しています。家計簿アプリDr.Wallet、経費計算アプリDr.経費精算の開発運営を手がける同社の代表である黒﨑氏に、これまでの事業で苦労した経験やぶつかった壁、そこから得た教訓や若い方へのメッセージを伺いました。株式会社Mi6の川元との対談、ぜひ後編もお楽しみください。
 
以下
黒﨑:株式会社BearTail 代表取締役 黒﨑 賢一
川元:株式会社Mi6 代表取締役社長 川元 浩嗣
 

“諦めの悪さ”が逆境を乗り越える

川元
“思い込み力”で突き進んできたという黒﨑さんの事業を伺っていると、一見順風満帆に見えるんですけど、実際には壁に直面することもあったと思うんですね。困難にぶち当たったときのことを、よろしければ教えていただけますか。
 
黒﨑
やっぱり思い込みなので、勘違いということもままありまして(笑)。先を読んでるわけじゃなくて、思い込んでるだけなので、先見性があるとかではないんですよ。特に家計簿アプリの事業はうまくいかない時期がありました。「人が入力したほうが精度が高い」と思い込んだ結果、原価が高くなって収益化できなくなったんです。
 
投資家から集めたお金を使い切って、チームが崩壊して、20人いた社員がほとんど全員辞めて、会社つぶれそうになりながら、新しく経費精算事業を立ち上げました。完全に思い込みなので、間違いはたくさんありまして。そういうところは、痛手をこうむりやすいかもしれません。
 
川元
思い込みの負の面も見えてきたと。
 
黒﨑
そうですね(笑)。
 
川元
それはいつの出来事ですか。
 
黒﨑
2年前の2016年の夏ぐらいにチームが崩壊して、お金が尽きたって感じでした。
 

 
川元
今のお話をお聞きすると、家計簿アプリの事業を閉じたようにも聞こえるんですけど、実際には続けてらっしゃいますよね。そのときには何があったんですか。
 
黒﨑
「ユニークな購買データには資産性が発生する」という、当初の思い込みを捨て切れなかったんですね。20人のチームを2人に減らしつつも事業を残し、2年間ずっと道を模索していました。今はそれが価値を生んで、事業単体としては数千万円利益が出るようになって完全に黒字化しました。
 
川元
家計簿アプリの事業も黒字化したんですか。すごいですね。
 
黒﨑
でも4年半かかりましたね。2年目でお金が尽きかけてたので。
 
川元
家計簿アプリの事業は一回崩壊しかけて、そこから耐えて、また芽が出たってことなんですね。
 
黒﨑
そうですね。諦め切れないというか、諦めの悪さがあるというか。閉じたほうがいいって、みんなに反対されて、スタートアップで2つのプロダクトを持っていると絶対に成功確度が下がるとか、あらゆる人から言われたんですけど、諦めの悪さが出てしまって(笑)。時間の問題で売れるんじゃないかっていう思い込みがあって、残そうと思ってやってきました。
家計簿アプリは今年の後半から来年にかけて、もう一回ブーストを組み直すと思います。事業として捨てなくてよかったなと思っています。
 
川元
1年ぐらい前かな、起業家4人で飲んだときに、「売却したら?」「買うよ」みたいな話もあったんですよね。だけど、そこは踏ん張ってアクセル踏み続けたんですね。あらためて、そこも黒﨑さんのある種諦めない思い込み力、そこまでいっても諦めない力のすごさを感じさせていただきました。
 
黒﨑
あの頃、投資家は幻滅してましたね。「ここまでいってなんでまだ粘ってるのか、マジで分からん」みたいな。今は大丈夫ですけど。
 
川元
投資家のシェアにもよりますけど、それだけ事業が厳しくなってくると投資家の発言力ってめちゃくちゃ大きくなってくると思うんですよ。それ、どうやって乗り切ったんですか。
 
黒﨑
たしかに投資家の発言力は強かったのですが、正しいことを言うので、全面的に参考にさせてもらいました。ただ「そこは嫌だな」というところだけは、従わなかったりもしましたが。8、9割は聞いて、ちょっと1割ぐらい自分の好きにさせてもらえないかという話をしたり。途中から、本当に苦しくなった後は、「結局プレイしてるのは俺だし」という気分にもなりました。「そこまで言うんだったら、ご自身で経営されたらどうですか」となっていくので、相手も「じゃあ、好きにやったらどうですか」みたいな。半分けんかじゃないですけど、そういうコミュニケーションを突き詰めていくうちに、お互い尊重し合う間柄になった。もしかしたら尊敬は僕だけしていて、相手は諦めてもらえるようになった、だけかもしれませんが。
 
川元
極限までいって、投資家とのコミュニケーションもかなり深いところまでいったということですね。
起業家の真の強さが、今、垣間見えました。本当にそうですよね。投資家も役割の一つで、でも船の中心にいるのはあくまで起業家なので、何言われてもやりたいことを貫くというのは、起業家の一つの矜持ですよね。なんのためにやっているのかという本質ですよね。
 
黒﨑
決して投資家軽視ではないんですけど、そういう役割の問題はありますよね。
 

 
川元
おっしゃるとおりで、僕も両方やったので分かるのが、投資家の言うことってもっともで、刺さりまくるときは刺さると思うんです。だけど、それを受けても本当にやりたいと思えたら、それは本物だっていうことがあるのかなと思って。そういう意味で全ては次につながってるということなんじゃないかと思いました。ちなみに、経費精算アプリのほうはどうだったんですか。大変なことはありましたか?
 
黒﨑
幸いなことに、ローンチしてすぐに大手の企業が顧客になってくださいまして。売上1兆円を超えるような大企業の経費精算に関わらせていただきました。全社的に導入されたんですけど、その過程で求められる“大企業品質”に応えていくのが大変でしたね。お客さんの求める品質を超えていくところが、結構ハードでした。
当初の予算をはるかに超える工数が必要で、お客さまに追加の工数の費用を要求したところ断られたり、開発が難航したこともありました。結果、予算をつけていただいて、大企業の心意気を感じさせていただきました。
 
川元
両事業ともいろんな困難を乗り越えて、今に至るんですね。今はいい感じですよね。
 
黒﨑
ようやく死にそうではなくなったかなという感じですよ。最初は「3年か4年ぐらいでIPO(新規株式公開)までいくんだろうな」と勝手に思ってたんですけど、売り上げって案外立ちませんし、大変だなと(笑)。「順調にいかねえな、人生」って、最近はそんな感じです。
 

思いを共有する仲間を大切にしたい

 
川元
黒﨑さんが起業して今までやってきた中で、未来に生かすための教訓があったら教えていただけますか。
 
黒﨑
「とりあえずやってみよう」は、少しやめようって(笑)。
 
川元
“思い込み力”と、ちょっと反対のメッセージですね。
 
黒﨑
事前に調べたら本に書いてあったとか、もうちょっと聞いておけば同じ過ちをしないで済んだといったことが多々あったので。やってみたいなと思ったら、少し調べてからやろうかなって。
 
川元
僕の耳にも痛いメッセージですね(笑)。起業家あるあるみたいな。
 
黒﨑
そうなんです、僕も「とりあえずやってみよう派」なので(笑)
 
川元
具体的には、どういうことがありましたか。
 
黒﨑
前職の能力とか立場で判断して、人物評価を軽視する傾向があったように思います。「大手広告代理店や大手リサーチ会社の部長クラスでした」とか。そういうタイトルってもう評価されてるから、そこは保証されてるんだろうな、いい人なんだろうなと思って船に乗せて、価値観の相違で、ことごとく失敗する。でもこういう失敗って、どこの本にも書いてあるんですよね。
 
それこそ経費精算アプリ事業でお客様に見積書の作成ガイドラインを提出した時は、独自のロジックで見積もり工数をやって、単価もあまりバッファーのない形で出してみたり。で、出して、炎上して、めちゃくちゃ損をする。見積もりの方法に関する本って腐るほど出ているんです。なんで俺、見積もりの本を1冊でも読まなかったんだろうとか(笑)。そんなことが大量にあって、恥ずかしいんですけど。
 
川元
教訓としては、それは大きなメッセージですね。
 
黒﨑
あまりに保守的になり過ぎてもあれなんですけど、ちゃんと学んでからやったほうが疲れないなと思って。自分なりにやってるつもりなんですけど、だいぶ浅いというか。これでOKだろうと思ったら、全然OKじゃないみたいなところが結構ある。
 
川元
思い込み力のプラスの面と、マイナスの面とありそうですね。面白い。
 
黒﨑
もう一つの教訓は「同じ想いを持ってる仲間を大切にしよう」ということですね。ジョインした瞬間は同じ想いを共有してた仲間が、2年ぐらいやってうまくいかなかったときにドーンと辞めちゃったので、想いを共有できてなかったんだろうなと。もうちょっとちゃんと、自分の考えてることや相手の考えを聞いてコミュニケーションしたほうがよかったかな、という教訓はすごくありますね。かなり覚悟を持ってジョインしてもらったはずなのに、その船を下りなきゃいけなくなるって結構悲しいことなので。
 
川元
仲間が離れるという経験を経ると、より深いレベルで想いを大切にするということが、きっとできていきますよね。
 

 
黒﨑
以前は「事業の成功のために必要だから、みんな犠牲もになってくれ」ていうスタンスではあったんですけど、今はどちらかというと、「みんなの人生を背負っていくし、みんなの人生の時間を預かっている」という意識が強くあって。
 
川元
お金の結びつきから、心の結びつきにシフトしたような感じがしますね。
 
黒﨑
そうですね。どちらかというと、そっちを重視しないといけないかなというのが教訓。これからも大切にしたいなと思います。
 
川元
黒﨑さん、本質的なところにさらに向かわれてるなという感じがあらためてしました。最後に、20代、30代の若者向けにメッセージを送るとしたら、どんなメッセージを送りますか。
 
黒﨑
いったん思い込んだら簡単には諦めない。この人の生き方についていこうと思ったら、多少嫌なことあってもついていったほうがいいということを伝えたいです。自分が「こういうふうに生きよう」と思ったら、多少みんなに反対されても、お金がなくなったりしても、諦めずに頑張って欲しいですね。
 
川元
思い込みを諦めないというメッセージですね。ありがとうございました。
 
 
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今回の対談の後編では、「“諦めの悪さ”が逆境を乗り越える」という、事業の失敗から立ち上がり黒字化に転換するまでのお話と、「思いを共有する仲間を大切にしたい」という、組織を運営する上での黒﨑氏の思いについて語っていただきました。自分の中に事業に対するビジョンを持ち、諦めずに信念を貫く姿勢は、起業に限らず広くビジネスを行う上で大切な精神といえるかもしれません。
 
あなたにとってはどんな話が胸に残りましたか? この記事から、これからの時代を生きるヒントが見つかれば幸いです。
 
前編はこちら
世の中に時間革命を 株式会社BearTail黒﨑氏のビジネスにおける原動力【前編】
 
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