今回は、株式会社Voicy 代表取締役の緒方憲太郎氏にお話を伺いました。「感性xテクノロジーで新しい文化を作る」株式会社Voicyで緒方氏は、世界で誰もやっていない”声”の事業をされています。前編では、なぜ緒方氏が”声”の事業をスタートされたのか? ということを中心にお話をお伺いしました。
以下
緒方:株式会社Voicy 代表取締役 緒方 憲太郎
柴田:株式会社mannaka 代表取締役 柴田 雄平
Voicyの事業内容と声の事業を始めた理由
柴田
今日のインタビューは、タイトルとして、『300社以上の会社を見てきた緒方さんが、世界で誰もやっていない「声の事業」を始めた理由』についてお聞かせ頂きたいんです。緒方さんは、なぜ、「声の事業」を始めたんですか?
緒方
そもそもの話ですが、僕はたくさんの会社を見てきて、起業には様々な形があると思っていました。「ただ稼ぎたい」とか、「自分の持っているモノを人に見せたい」、「人に勝ちたい」、「目立ちたい」、「困ってる人を助けたい」など、それぞれの人がそれぞれ起業へ対するイメージを持っていると思います。だから、起業という言葉は一括りにはできないものだと感じながら、僕はこれまでベンチャー企業の支援をしてきました。その中で僕は、「世の中に新しいものを生むこと」だったり、「ハッピーを生むこと」という企業理念を掲げている会社が好きで、そういう会社のサービスを見たいとずっと考えていました。だから、自分が起業する時も、「誰もやっていないこと」と、「新しい付加価値を感じられる」といったことにチャレンジしようと決めたわけなんです。そして難易度の高いことにもチャレンジをしようと思っていました。
また、もう1つ大きなこととして、「日本が誇れるサービスを作りたい」とも思っていました。例えば、アメリカを代表する企業といえば、AmazonやGoogleなどがすぐに出てきますよね。じゃあ日本は? と考えると、SONYやトヨタなど、昔からある企業で、新しい企業ってなかなか出てこないんですよね。なので、「日本にはこんなにすごい会社がある!」と誰もが思える会社を新しく作るということは、そこに新しい文化を生むということだ、と僕は考えていて、だから自分も新しい文化を作るサービスを作りたいと思ったんです。
そしてそこで、自分でやる(起業する)としたらこれだ、と思ったのが、「五感の一つを丸々事業にしてしまおう」ということだったんです。目で楽しめるものの中で、耳でも楽しめるものはもっと楽しいし、さらに「声」というのはそれ自体にもたくさんの情報が入っています。そして、やっぱり「声」って情報を届けやすいんですよね。なので「声」にはもっと価値があると思い、その「声」のポテンシャルを最大限に使えるものを作ろうと考えたのが、Voicyのサービスを作る1番のきっかけになっています。
「声」には、コミュニケーションや情報伝達といった能力以外に、表現力や人間性など暖かい部分もあったので、それがもっといろんなものに乗っかる世界を作りたいなと思ったんですよね。では今現在の「声」の産業ってなんだろう? と考えると、斜陽になっているラジオなんですよね。でもラジオって、閉じこもった場所で、皆でマイクを掲げて、60分番組を流しているだけになっていて、とてももったいないと思うんですよ。「声」で楽しめるものって、もっと自由度があって、どこからでも出せて、どこからでも聞けて、もっとできることがあるだろう、と。ラジオなどの音声放送の世界を再発明できるんじゃないか、と考えたわけです。
緒方氏が五感をヒントに、声の事業を始めた理由
柴田
これまでの緒方さんの仕事上、様々な会社を見てきた中で、最初に五感がヒントになったのはなぜなんですか?
緒方
サービスというものは上流から下流まで幅広くあります。ペインをちょっとだけ直す方がニーズにはなりやすいですが、深いところまでは掘り下げることはできません。深いところまでいくと、その人の五感というところまで辿り着くんじゃないかなと考えていて、そういったところが個人的には一番面白いと感じていました。その五感で感じるものの中で、自分が注目したものが「声」だったんですね。
僕は人からよく「良い声だね」と言われることがあって、それを嬉しいと感じていました。実は、僕の父親はアナウンサーをやっていたのですが、50歳くらいの時にテレビの表舞台に出てこなくなりました。父はテレビの前で、「若いやつらはまだまだなのに…」とつぶやいていました(苦笑) テレビはマジョリティに刺さる人しか呼ばれないので、キャリアがあってもアサインされないと仕事がないんです。そんな人たちに活躍するチャンスを与えられるような場所を作りたいと思っていました。話したい人や届けたいと思う人は、世の中にもっとたくさんいると思うんです。
ちょっと余談になりますが、僕は話が面白い人が好きなんですよね。で、面白い話を探そうと思ったら、YouTubeで「笑ってはいけないシリーズ」とか、「松本人志のすべらない話」とか、「アメトーーク!」くらいしかないと個人的には思っていて、「ここに行けば面白い話が山ほどある!」という場所ってなかなか存在しないんです。でも、そういう場があったらいいですよね!
例えば、3対3の合コンをするとします。男3人のうち、一人はラジオのプロ、一人は日本で1番の営業マン、そしてもう一人は日本で1番のコンサルタントです。すると、話が面白いのは絶対に後者の2人だと思うんです。または、漁師さんだったり。結局、話というのは、その人の経験が溜まって面白い話が出てきているんです。そういった経験を積み重ねている人たちがもっと喋るべきじゃないかと思うんです。
そう考えると、日本に面白い話は山ほどあるはずなんです。音声放送のハードルを下げ、メリットを上げて、どこでも音声放送をできる仕組みを作り、その人たちが簡単に音声放送をできるような形にカスタマイズしてあげれば、その中で発信する人がめちゃくちゃ増えて、それを聞いて喜ぶ人が増える。そうしたら、新しい文化が1つ増えて、「話が面白い、この人が好き」だったり、「私が好きな声のタイプは○○」ということだったり、こういう新しい1つの好きというものが世の中にボコンと出てくるんじゃないかと思ったんです。
声の事業の面白さ、声には「生」がある
柴田
いいですね!素晴らしいですね。今、事業を始めてからどれくらい経つんですか?
緒方
11ヶ月ですね。
柴田
事業は思い通りに進んでいますか?
緒方
幸い、ユーザーはじわじわ増えています。いきなり「声」を聞いて、すぐ好きになるケースは少ないんですが、大体3日間も同じ「声」を聞くと、その後もずっと聞いてくださるという方が多いんです。このじわじわくる感じが面白いです。バズらせるより、母の味噌汁の味のように、じんわり積み上げていくものを作ろうと考えています。ライクじゃなくてラブを貯めようという発想ですね。発信が簡単なので、習慣化させてコミュニティファン化をさせるという点で、「声」は相性がいいなと思っています。
逆に想定外だったことは、ただ綺麗に喋るだけの人は他に比べてあまり人気がないということです。父親に仕事をあげたいと思っていたのに、ただ綺麗に読むだけの人は活躍しにくいという事実があり、またこれも面白いデータでした。さらに、毎日の生活の中で、人の日常の「聞く」時間がそれほど多くなかったので、そこを切り拓いている感じがあります。でも、ここはとても大変で、そもそもイヤホンがないとか、今聞くシーンじゃない、という状況の人が多いから、そこに新しい文化を作っていく必要があるなと感じています。逆に「声を聞いて、一度好きになってくれた人はずっと好きになってくれる」ということは、良い意味で誤算でしたね。
柴田
例えばおじいさんを亡くしたばかりのおばあさんに、お孫さんがこのデバイスを送り、お孫さんが「声」を発信し続けると、おばあさんはずっと孫の「声」を聞き続けていられるので、住んでいる場所という物理的な距離と心の距離を縮められるデバイスだなと最初は思いました。
緒方
そうですね。僕の母が、実家の納戸に昔の電話の留守録を未だに残しているんですけど、そこには亡くなった祖母の声が入っているんですよ。きっと、本人(祖母)のものを残したいという母の想いがあったんだと思います。「声」には写真や文章にはない「生」が入っていると思うんですよね。動画やAR、VR、ゲームなど、情報はリッチになっているけれども、その分原価もかかります。そうすると、利幅は少なくなります。逆に、それらの情報を1番小さくして本人性を感じるところは、つまり「声」なんじゃないかと思ったんです。
柴田
これは、いつまでにどのような形で世の中の人たちに浸透させていくようなイメージで考えていますか?
緒方
まずインフラとして、モノが喋るといった世界や、AIスピーカーなどいろいろな物から「声」が出る世界を作っています。いつでもどこでも声が楽しめるという場所を作りながら、コンテンツとしては企業にどんどん参入してもらいたいと考えています。個人でもコアなファンがいる人たちには、有料メルマガのようにお金を払いながらサロンのような形を作っていきたいです。自分の会社や自分のメディアの音声版を出すことで、ファンを作りたい人や、自分の顧客をさらに楽しませたい、そういうチャンネルが増えてくると、もっと音声放送が自由で身近なものになっていきます。今まではラジオ局がメインで、インタビューコンテンツや番組を作らないといけなかったけれども、今後は1人1人が主体として「声」を配信する世界がやってくるのかなと考えています。
起業の怖さはなかった。人生は道に迷ったら面白い方を選ぶ
柴田
なるほど、いいですね。少し突っ込んだ質問をしますが、緒方さんが今まで多くのベンチャー企業と関わり、良くも悪くも失敗した人たちを見てきたと思いますが、実際に自分が事業をやろうと決断をした時に怖さはありましたか?
緒方
怖さはなかったです。理由は2つあります。まず、怖くなくなるまで前の仕事をやり切ったということですね。その自負があるから、あとは楽しいことをやろうかなという気持ちが大きいんですよね。
もう1つは、スタートアップ業界は実はとても恵まれていて、自分のやりたいことに出資してもらって、給料をもらいながらやりたいことができるんですよね。たとえ潰れても、0円。自分にとってはリスクはないよなという思いがあって、やったことの経験は自分の糧になります。リスクがあるとしたら、ローンが組めないくらいですね(笑) 当面の給料が安いということはあれど、自分にとっては良いのかなという思いはありました。借金をしてラーメン屋を作る方がリスクは高いと思います。実は下振れのリスクがないということが大きいです。皆さんは知らないでしょうけれども、実は低リスクハイリターンの産業だと思っていたのでそんなに怖くなかったですね。
それと、そもそも僕は、「人生は道に迷ったら面白い方を選ぶ」と決めています。人生は楽しむために生きているので、例えば試合で「失点したくないから試合には出ない」ということなんてないじゃないですか? 失点もあっての試合なわけですよね。「とにかく後ろにはボールが行きません」「前にだけシュートを打てます」というのは、楽しいかもしれないけれども、僕が求めているものはそこではないということです。どうせ死ぬんだったら、人生というゲームの中で失点も含めて楽しめる場所で生きていくのが良いんじゃないのかと思っています。
年収800万円をもらって毎日めちゃくちゃ大変で、休みをもらって200万円を使って旅行して何とか疲れを減らす仕事か、はじめから年収600万円でやることがめちゃくちゃ面白い仕事か、どちらがいいか? と聞かれたら、僕は年収600万円の仕事でいいやんと思うタイプです。自分の「楽しい」を高濃度に変換できる人は、楽しいことを突き詰めた方が得なんですよね。僕は、得られる高揚が、ただ100万円を得ることと、面白いことをこれでもかとやって稼ぐ100万円では、金額的には同じ100万円であっても後者の高揚感の方が圧倒的に高いんです。そうすると、自分の「楽しい」を出来る限り突き詰めた方が、仕事をする上でトータルの高揚感は高いんですよね。
柴田
緒方さんはそもそも、お金で動くイメージはありませんでしたけれども…
緒方
でも、世の中、銭やけどな(笑)
柴田
いやいや(笑) 緒方さんは、常に大衆とは逆を行きますみたいなタイプかと思っていました(笑)
そもそもこの事業は最初は何人で始めたんですか?
緒方
最初は2人でしたが、たくさんの方々に助けて頂いています。twitterを運用しているのもユーザーさんだし、営業資料を作っているのもパーソナリティーさんで、本当に皆さんに助けられています。
世界中で誰もやってないことをやっているから、多くの人が手伝ってくれる
柴田
なぜ、この事業を助けてくれる人がたくさんいると思いますか?
緒方
なぜ多くの人が手伝ってくれるのかというと、「世界中で誰もやってないことをやっている」からですね。しかも、このサービスではハッピーになる人しかいないことがすごく大きいです。そしてもう一つ、自分が一番心がけていることがあって、うちの会社は言わば「部活」だということなんです。部活だったら、「この球を処理したら、いくらもらえますか?」とか「せっかく球を拾ったけど、損をした」なんてことは絶対言わないですよね? だから、この仕事に携わったこの時間がハッピーだったと、みんなには思ってもらえているんじゃないかと思います。「部活」には、もちろんしんどい時期もあるけれども、損をしたと思う人はいないでしょう? 僕はVoicyで働いている時間をそんな時間にしようと心がけていて、みんなでどれだけ楽しめるかということにコミットしています。
今うちの会社にいる人は、他のベンチャーで働いていてVoicyに興味を持っている人だったり、大企業で働いていてベンチャーに行くほどではないけれども携わってみたいという人、Voicyのユーザーのファンになって、もっとサービスに関わりたい人などがいます。
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今回は、株式会社Voicy 代表取締役の緒方憲太郎氏にお話を伺いました。前編では、なぜ緒方氏が声の事業をスタートさせたのか? ということを中心にお話を伺っていきました。「声」の事業を始めようと思った背景も、これからの「声」の事業の展望もとても興味深いお話でしたね! 後編では、今後のVoicyについてと、欲しがられる人材の素質、姿勢といった話を伺いました。後編もお楽しみに。
▶︎株式会社Voicy
Sensibility Meets Technology
感性xテクノロジーで新しい文化を作る
私たちは目から取得する情報に飽和した社会の中へ、声の人間味や表現力を浸透させ、声の可能性を拡げ、新しい豊かさを皆様の生活に提案します。
そのために、私たちは常に新しいことに挑戦し、新しい付加価値を生み、全力で楽しみながら成長します。
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