人材獲得競争激化の影響で20年ぶりの平均賃上げ率、高水準の2.4%に到達

日本経済新聞社がまとめた2018年の賃金動向調査(1次集計、4月3日時点)で、平均の賃上げ率は2.41%と1998年以来20年ぶりの高い水準となりました。大手製造業が主導して相場を形作る従来のモデルが崩れ、人手不足への危機感から賃上げに動いた陸運や小売りなどが平均を押し上げました。人材獲得競争が激しくなる中、初任給やシニアの待遇を改善するなど、横並びの賃金体系を改革する動きが産業界全体に広がっています。
 

 

非製造業の賃上げが大手製造業を上回る

人手不足感が強い非製造業の賃上げ率は2.79%で、97年以来21年ぶりの高水準な伸びとなりました。製造業を0.52ポイント上回る数値です。製造業の伸び率を超えるのは、21年ぶりになります。大手製造業の賃上げがその他の産業に波及していくという従来の構図が崩れつつあることがわかります。
 
陸運や外食・その他サービスの平均基準内賃金は30万円弱で、全体平均の31万3667円を下回ります。従来の給与水準では人を確保できない可能性があり、ヤマト運輸は今年の春季労使交渉(春闘)で労組の要求に対し、満額の1万1000円の賃上げで回答。賃上げ率は3.64%で、企業別の賃上げ率上位7位でした。
ヤマトなどの陸運は業種別で最も伸び、全業種で唯一賃上げ額が1万円を超え、1.55ポイント上昇の3.39%でした。ネット通販の普及で荷物が急増し、サービス維持が危ぶまれている現状が影響していると考えられます。福山通運も新卒確保のため初任給を上げ、合わせて既存社員の給与も上げたため、賃上げ率は5位の3.81%になりました。
百貨店・スーパーは2.53%で、食品スーパー大手のライフコーポレーションの賃上げ率は3.86%。パートやアルバイトの時給も増やす予定です。
 
製造業の中でも、グループ内の序列や同業他社との横並びで賃上げが決まるという秩序が揺らぎます。製造業の賃上げ率上昇は3年ぶりで、伸び幅は0.18ポイントにとどまりました。18年3月期に純利益で過去最高を見込むトヨタ自動車は、3.30%の賃上げを決めたもののベースアップ(ベア)の具体額は示さず、賃上げの相場形成をリードする先導役を降りる形となりました。
トヨタグループは、デンソーやアイシン精機など、グループ大手が回答した月1500円のベア額が基準になりましたが、トヨタグループ傘下の組合でつくる全トヨタ労働組合連合会の約3割の企業がそれを上回るベア額を回答。大手のベア額を逆転しました。
日立製作所やパナソニックなど電機大手のベアは1500円で横並びであった一方、電機大手の労働組合でつくる電機連合の統一交渉に加わっていないソニーは年収で約5%の賃上げを決めました。人工知能(AI)などの技術者を獲得しやすくし国際競争力を高める方針です。
 

若手やシニアへの待遇を手厚く、雇用拡大

生鮮食品や原油価格の上昇で、実質賃金はマイナスが続きます。政府は5年連続で賃上げ要請し、初めて3%という具体的な数値目標に踏み込みました。
ただ、20年ぶりの高水準に押し上げたのは、官製春闘の成果ではありません。個別企業がグローバルな競争に向けて人材を確保するため、硬直化していた年功型の賃金体系も柔軟に見直すようになったという構図です。大卒初任給について、シャープは労組要求を上回る月5000円の引き上げを決定。富士フィルムも5%上げ、ライオンは初任給を9年ぶりに6%程度上げました。
 
第4次産業革命として企業が競うAIやデータ分野は人材争奪が過熱し、一律の初任給など従来の横並びの慣習を揺さぶり始めました。フリーマーケットアプリ大手のメルカリは、インターンシップ(就業体験)の実績で初任給に差をつけ、サイバーエージェントはエンジニア職の一律の初任給を廃止しました。
求人情報大手のエン・ジャパンによると、同社の転職サービスを通したデータサイエンティストの求人は1年で約4倍に増加。中国などの外資が厚待遇で日本の優秀な新卒学生の採用に相次ぎ乗り出すなど、人材採用と処遇をめぐる競争は新たな段階に入りつつあります。
 
一方、JR西日本やクボタはシニア層をつなぎとめるため、60歳以上の再雇用者も賃上げの対象としました。ホンダは17年に定年を延長し、シニアの給与水準を従来より引き上げました。知識や経験を持つシニアのやる気を高め、工場でのノウハウ伝承などにつなげる狙いです。
 
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