今回は株式会社KOMPEITO 川岸亮造氏にご登場いただきました。株式会社KOMPEITOは、新鮮で美味しい野菜や果物を会社のオフィスで食べられるサービス「OFFICE DE YASAI」で急成長を遂げたベンチャー企業。会社における働きやすい環境づくりや、従業員の健康改善を促す福利厚生の充実に取り組んでいます。同社の代表取締役社長兼CEOである川岸亮造氏に、KOMPEITO設立の経緯や、オフィスに野菜を届けるという事業に至った道のりについてお話を伺いました。PILES GARAGE編集長の柴田との対談をぜひ、お楽しみください。
以下
川岸:株式会社KOMPEITO 代表取締役社長兼CEO 川岸亮造氏
柴田:株式会社mannaka 代表取締役 柴田雄平
“農業”をキーワードに会社を設立
柴田
まずはKOMPEITO設立までの経緯を教えていただけますか。
川岸
2007年に東京理科大学工学部経営工学科を卒業して、日本能率協会コンサルティングに経営コンサルタントとして就職しました。そこでは製造業を中心に、コストダウンやチームマネジメント、商品企画のコンサルティングをしていました。社内に研究チームがあって、「製造業という部分を少し広げて“ものづくり”に言い換えてみると、もっといろんなチャンスがあるんじゃないか」と研究していたんです。その中で、農業分野にいろいろな課題があるということがわかったんですね。ただ、農業分野の方にコンサルティングを行うというのは実際問題としてかなり難しい。「だったら、農業の生産者が乗っかりやすいサービスを立ち上げた方がいいんじゃないか」となって、当時の会社の同期と2人で起業を決めたんです。
柴田
農業に対しての課題を感じて、実際に起業するまでの期間はどれぐらいあったんですか。
川岸
同期と一緒に起業を決めたのが2012年の1月です。研究チームで農業の課題についての話題が出て、その同期から「市場環境から考えて、コンサルは厳しいと思う」という話もあって。そのあたりから同期と「じゃあ一緒に起業してみるか」となりました。僕も研究チームが調べているデータを洗いざらい見たり、別の切り口から調べたり、半年くらい調査研究を重ねました。互いが抱えているプロジェクトが一区切りついた8月に退職し、9月に会社を立ち上げました。
柴田
大学生のときからすでに起業するイメージがあって、コンサルティングの会社に入ったんですか?
川岸
起業するつもりはあまりなかったです。ただ、2年浪人して大学に入って、中高時代の友人は現役や1浪で大学に進学するケースがほとんどだったので、「ちょっと後れをとったな」という気持ちはありました。「どうやったら追いつけるかな」と考えた時に、短期間で成長できる環境だと思ったのがコンサルティングファームだったんです。
入社後数年経つと、5つぐらいのプロジェクトを同時進行で進めるようになったんですけど、「これを1つに集中すれば、もっと世の中にインパクトを与えるようなことができるんじゃないか」と思い始めて、同期とも独立の話をするようになって。これが起業を決める前年の秋でした。それから農業の課題の話が出て、「じゃあこの分野で一緒に会社をやってみようか」と。蒲田の居酒屋で決めました(笑)。
柴田
その時は何歳でしたか。
川岸
29歳ですね。
柴田
起業にあたって、将来への不安はありませんでしたか。30歳手前だと、企業なら出世コースのレールに乗る時期ですよね。その安定を捨てる不安があったと思うんですが、それを凌駕した何かがあったんですか?
川岸
起業するタイミングを人生の中で考えた場合、30歳くらいか、60歳を過ぎて起業するかのどちらかだと思ったんです。60歳に起業するっていうのは、ずっとどこかの会社で働いて退職金をもらって、そのお金を元手にそれまでの経験を生かして起業するということですよね。「老後にただ遊ぶだけじゃつまらない」という思いで。30歳の起業だと、もう少し「チャレンジしたい」という気持ちが強いと思います。その中で仮に失敗したとしても、背負う借金は、まあ3千万くらいかなと。それくらいの借金なら、家買うの諦めればどうにかなるかなって。その失敗も糧にできるかなと。
“儲からない農業”の構造を変革したい
柴田
現在、「OFFICE DE YASAI」という、オフィスの常設冷蔵庫に野菜を届けるサービスで急成長していますが、この事業内容は、前職で起業を考えていた頃からすでにあったアイデアなんですか?
川岸
もともと、「OFFICE DE YASAI」のようなサービスは全く考えていませんでした。最初は、農業がなかなか儲からない構造について考えていたんです。農業は商品が消費者に渡るまでに中間流通がいくつもあって、それが利益を圧迫するという面があるんですね。「じゃあ直接流通にしたらいいんじゃないか」という単純な発想で、生産者さんから個人のお宅に直接野菜を送るというサービスを始めました。
ただ、これには2つネックがありました。生産者の方に自由に値段を決めてもらうことで生産者の利益を増やそうと考えたんですけど、そこに物流費や個人の宅配便料金などを乗せると、結局大手の食品宅配サービスと同じような値段になってしまうんです。さらに生産者さんが個人に野菜を送るとなると、野菜の種類も限られてしまう。たとえばニンジンをメインで作っている生産者が商品を送るとして、消費者の方はいつもニンジンだけ食べるというわけにもいかないですよね。大手なら自社倉庫で管理していろんな種類の野菜を集めて送ることもできますが、結局割高になってしまうのは否めないということで、早々にたたみました。
次に、店頭での野菜販売も試みました。商店街にあった酒屋さんのスペースを半分借りて、八百屋をやったんです。すると、今度は在庫リスクが生まれたんですね。天気の良い日はいいんですが、雨の日は全然売れないですし、野菜は日が経つと腐ったり劣化してしまいます。毎日の販売をやめて土曜日だけマルシェという形で販売したりもしたんですが、そうなると売上が土曜日だけになってしまう。
「じゃあ、人が集まってるところに野菜をお届けするのはどうだろう」と、いろんな人が集まる場所を考えてみました。たとえばママさんバレーチームの練習日に野菜を送ればママさんがみんな持って帰るんじゃないかとか、ママサークルの集まりに届けたらどうかとか。その中で、オフィスという案も出てきたんですね。
「オフィス野菜」という発想までの試行錯誤
柴田
その当時から、今のようにカット野菜を届けたんですか?
川岸
最初は野菜そのものを生産者から直接オフィスに送り、手分けして持ち帰ってもらうような形で考えていたんです。福利厚生でそういうことをしている会社もあったので、その方向で営業していました。そうしたら、ある会社の社長から「若い人は野菜を持ち帰っても家でなかなか調理しないし、ニンジン1本だけもらっても他の食材も買いに行かなきゃいけない。むしろ昼食をカップラーメンで済ますような状況をどうにかしたいので、その場で食べられるようなものにできないの?」と言われたんですね。その意見がきっかけで、今のようなサービスに方向性を変えていきました。
柴田
その社長さんの意見がきっかけになったんですね。そこですぐにアイディアを切り替えたんですか?
川岸
そうですね。お話を伺って、たしかにそうだと思いましたし。ただ、野菜をオフィスに届けて本当に食べてもらえるのか分からなかったので、別の会社でテストしてもらったんですよ。「無料で誰でも食べていいですよ」と、大量のミニトマトをオフィスに置いてみたんです。
柴田
どんな会社でテストマーケティングをしたんですか?
川岸
当時僕らが入っていたシェアオフィスが、グロービス出身の方が運営しているシェアオフィスで、グロービス関連の方たちが出入りしていたんです。その中に、当時プラスの執行役員ヴァイスプレジデントだった伊藤羊一さんもいらっしゃって、この話をしたら「それ面白いね」と言っていただいて。「じゃあうちで野菜置いてみたら」と言ってくださって、50人くらいのオフィスに置いてみたんです。そしたら瞬間的になくなって、伊藤さんが「即なくなりました!これ、ありですよ!」って盛り上がって。それで、オフィスで野菜を即食するという形に決まりました。
柴田
そこから今の形になるまで、どのぐらいかかりましたか。
川岸
テストマーケティングから半年くらいでサービスを開始しました。それからはオフィスに置く冷蔵庫の形を変えたり、野菜の洗浄について食品メーカーの方に教えていただいたりといった試行錯誤があって、金額設定も徐々に変えて、3年ぐらい前に今のような形になりました。最初の1年は、売り方もいろいろなモデルを試したりしましたね。
柴田
なるほど。いろいろな試行錯誤があったんですね。
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今回の対談の前編では、コンサルティングファーム在職中に農業の抱える課題に関心を持ち、独立、起業を果たした経緯についてお話しいただきました。また、「オフィスに新鮮な野菜を届ける」という現在のサービスに至るまでのさまざまな試行錯誤について語っていただきました。“農業”を軸に手探りの状態でビジネスを始め、挑戦と失敗を繰り返しながら市場のニーズを掴んでいく過程に、川岸氏の粘り強さと柔軟性を感じました。対談の後編では、従業員の健康改善をめざした福利厚生サービスとしての事業を今後どのように展開していくか、また若い世代に向けたメッセージについてお話を伺っています。
後編のテーマは「消費者だけでなく生産者も喜ぶサービスを」「健康経営が会社の生産性を向上する」「若いうちに失敗を重ねて能力を伸ばす」です。後編もぜひご覧ください。
▶︎株式会社KOMPEITO
HP:http://www.officedeyasai.jp/