インクルージョン・ジャパン(ICJ)株式会社 吉沢氏に聞くベンチャー支援の面白さと抽象化力【後編】

今回はインクルージョン・ジャパン(ICJ)株式会社 吉沢康弘氏にご登場いただきました。インクルージョン・ジャパン(以下ICJ)では、日本の腕の立つビジネスパーソンによる新しいビジネスの創造を支援し、世の中で「最高のキャリアとは、自分たち自身でビジネスを興していくことなのである」という常識を作り出すことを目指しています。同社の取締役である吉沢氏に、対談の後編では、吉沢氏のビジネスの核となっている力と、若い世代に向けたメッセージについてお話を伺いました。編集長の柴田、株式会社Mi6の川元との対談をぜひ、お楽しみください。
 
以下
吉沢:インクルージョン・ジャパン(ICJ)株式会社取締役 吉沢康弘氏
柴田:株式会社mannaka 代表取締役 柴田 雄平
川元:株式会社Mi6 代表取締役社長 川元 浩嗣
 

ビジネス状況を抽象化する力

 
川元
吉沢さんはこれまで大きな仕事をいくつも手がけてこられて、本も執筆するなど活躍されていますが、吉沢さんの核になっている力についてお聞かせいただけますか。なぜ吉沢さんが、こんなにもいろいろな観点で新しいものを生み出していけるのかという意味でも、ぜひお聞きしたいと思います。
 
吉沢
私の親父が慶應の理工学部の教授で、僕自身も東大の院まで同じ分野の研究をやっていたんですよ。流体力学という分野なんですけど、要はいろんな物を抽象化してモデル化するんです。たとえば「なぜベイブリッジは揺れるのか」を考えた場合、「板とケーブルで作られた物体に風を流すとケーブルの方の周りに特殊な流れが発生し、板が揺れる」という具合に抽象化できるんですよね。そこにロジックを構築して、本当にそのロジックが正しいかを実験またはシミュレーションで検証するという思考パターンなんですけど。
 
そういう一家で育ってるんで、大学時代、もっといえば小学生の時からずーっとそんなことばかりやってるわけです。事業を立ち上げるとか、組織構造をどうするかといったことも、抽象化したモデルにする癖が常についている。抽象化のよさは、具体を抽象化して次の具体例に反映すれば他の分野でも応用がきくという点ですね。
 
川元
お父様から受け継がれたものが大きいと。
 
吉沢
かなりあると思います。うちの親父の研究室は、卒業後にマッキンゼー他、戦略系のコンサルに行く学生が多いんです。日本の戦略コンサルって、実は工学系出身者が多いんですよ。それはビジネスの状況をモデル化して抽象化できるから。抽象化ができれば、他の分野でも応用できる。それが重宝されるんですね。
 
川元
まさに「抽象化力」ですね。
 
吉沢
そうです。抽象化とセットで大事なのは、その抽象化が正しいかを検証するために、実験をしなきゃいけないということです。抽象化が間違っていれば実験しても成功しない。でも、抽象化が正しければある程度回るはずなんです。僕が仕事でやっていることも、ほぼライフワークですけど、いろんな大企業を巻き込んで実験して、抽象化したモデルが成り立つかどうか見るという点にありますね。「この抽象化間違ってたな」と思うこともありますし。
 

 

抽象化したモデルを実験・検証する

 
柴田
抽象化を間違うこともあるんですか?
 
吉沢
7割ぐらいは間違えますね。だいたい打率3割ぐらいですよ。
 
柴田
じゃあ、結構大きな失敗もしてきたんですね。
 
吉沢
失敗というかね、微妙に失敗するんです。微妙にうだつが上がらないみたいな。一例を挙げれば、以前あるベンチャーの人材募集に関わって、応募者3千人ぐらい集めて大きなイベントうちましょうとなったんです。でも大手広告代理店のクリエイターに話を持っていったら「吉沢さん、これ予算の額が二桁足りないね」って話になっちゃって。何となく立ち消えになったんですよ。こういう、ちょっと微妙な感じの失敗ですね。
 

 
柴田
ちょっと失礼かもしれないですけど、お金苦手なんですか?
 
吉沢
得意なはずなんですけどね。というか、かなり得意。ただ、この時は途中で若干飽きてきたというのもあるかもしれない。
 
川元
どこで飽きちゃったんですか?
 
吉沢
クリエイターの人達があまり乗ってこなくて現実的な話をしてきた時に、「ちょっとこれ微妙じゃね」と。
 
柴田
抽象化するときにビジョナリーとかドリーミングの話をするのが好きで、そこにロジックが入ってくるのがあまり好きじゃない感じですか。
 
吉沢
いや、意味のないロジックっていうのがあるんですよ。「コンストラクティビズム※」ってよく言うんですけど、MITだったかで、ある研究者が教えてくれて。
 
※ 参考:吉沢氏執筆のブログ「スタートアップの本当の魅力を教えてくれる「コンストラクティビズム」とは?
 
「2つの物体を止めておいて、どのぐらいのスピードでぶつけたら、2つの物体がどう動くのか」と質問されたんです。これ、子どもに同じ質問をしたら、すぐに自分で試してみて「こうなった」って答えるんですよね。
 
でも大人って、自分で試さずに過去の記憶と知識の延長線上で「〇〇が起きるに違いない」っていう予測をするんですよ。要は過去の繰り返しをやってるだけ。そうじゃなくて、まずは先に実験しろと。実験した結果に起きた事象を見て、そこから新しい論理を作っていけばいいと。実際にやったらどうなるか分かんないのに、ありきたりの過去の前例で「きっとこうなります」って予測するのは無駄だと思うんですよ。
 
柴田
でもこれ、大人はできてない人が結構多いと思いますね。確かに僕も今言われたら、考えちゃうかもしれないです。いきなりやらないと思います。
 
川元
僕も今考えちゃいました。
 
吉沢
普通は考えるんですよ。考えるのがまっとうなんです。でも僕の周囲の人たちは、割と意思決定がすごくて。「まあ、やってみたことないし、俺の中ではいけるはずだから、やってみようよ」とか。だいたい、みんなそんなノリなんですよ。
 
メディアの取材を受けると、記者がもっともらしい後付けするから、もっともらしい話に聞こえるんですけど、実際に事業をやる側は、そんなことあんまり考えてなくて、やってなんぼなんですよね。
 

前例にとらわれず、まずはやってみてほしい

 
吉沢
若い世代を見ててもったいないなと思うのは、分かった気になっちゃうこと。「最近ここのマーケットがイケてるらしい」とかなんとか言うじゃないですか、上場もしたことないのに。もっともらしいこと言わずに自分でやってみたらいいじゃん、って思う。
 
川元
今、まさに子育て中なんですけど、子ども心ってすごく大事だなと。今の話からも重要だなって思いますね。
 
吉沢
まさに。まずやってみてから考える。いってみれば、宇宙開発の民間ベンチャーに大企業も関わって100億投資※とか、普通に考えたらあり得ないですよ。でもそういうのがいいんですよ、何が起きるか分かんないっていう。
 
※ 参考:日本経済新聞「めざすは月、スタートアップが担う宇宙資源開拓
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柴田
楽しそうですよね。未来って夢にワクワク。期待値が無限に広がるのって、やっぱ未来しかないかなって、そんなことを再確認しました、今。
 
川元
吉沢さんから子ども心というか好奇心を感じるのが、いつもすごいなって純粋に思ってるんです。ロジックもすごくて、それを全部具現化できるというところも。
 
吉沢
若者にはね、ビジネスモデルとか、分かりやすいストーリーに騙されないでほしい。「ビジネスモデルがちゃんとできてないから、もっと考えてから起業したい」とかね。バカ言うなと。最初から完璧なビジネスモデルってないから。とりあえずはやってみないと。
 
柴田
最後に、20代のうちにやっておいた方がいいことを若い世代に向けてアドバイスいただけますか。
 
吉沢
スゲー人に会いに行く。シンプルにそれがいいと思う。
 
柴田
話を聞くと。で、やってみると。
 
吉沢
やってほしいと思います。
 
柴田
なるほど。貴重なお話をありがとうございました。
 
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今回の対談の後編では吉沢氏が幼少期から培ってきた抽象力について、また抽象化したモデルを実験し検証することの重要性についてお話を伺いました。また経験を重ねることでかえって新しいことや予測不能なことに対するチャレンジ精神を阻害するという問題について、分かりやすい事例を通して語っていただきました。「前例にとらわれずに、まずはやってみる」その一歩が、未来のビジネスチャンスを拓く大きな鍵となることは間違いありません。
 
あなたにとってはどんな話が胸に残りましたか? この記事から、これからの時代を生きるヒントが見つかれば幸いです。
 
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