今回は、有限会社オフィスボノボ 代表取締役 中山由紀子氏にお話を伺いました。中山氏は2004年に有限会社オフィスボノボを設立。女性経営者として、約15年間会社経営をされてきました。今でこそ女性の経営者は増えてきましたが、中山氏が社会に出られた時は、まだ男女雇用機会均等法が施行されたばかりの時代で、今の時代と当時は女性を取り巻く環境がまるで違っていたといいます。そんな時代を生き抜いてこられた中山氏にこれまでの時代の流れを踏まえた上で、これからの時代の生き抜き方についてじっくりお話をお伺いしました。
以下
中山:有限会社オフィスボノボ 代表取締役 中山 由紀子
柴田:株式会社mannaka 代表取締役 柴田 雄平
30年前の日本と今の「働く」の違いとは
柴田
由紀子(中山氏)さん、今日はよろしくお願いします。今日はまず、これまでとこれからの時代の「働く」の違いについて、お話をお聞きしたいと思っています。
中山
私が働き始めたのは23歳からなので、もう30年近く前のことになりますけど、まず「仕事観の違い」ということで話をしますね。私は男女雇用機会均等法施行後の1期生なんです。当時を知らない人に言っても信じられないかもしれませんが、当時の女性は4大卒よりも短大卒の方が就職率の良い時代だったんですよね。
柴田
え、なぜですか?
中山
企業側の女性に対するニーズがお嫁さん候補だったからですよ。仕事で業績をあげるということを女性に期待していなかった時代なんです。仕事イコール男社会、30年前ってそういう時代だったんですよ。
女性は結婚したら会社を辞めるというのが普通で、事務とか経理、広報という職種しか選択肢はありませんでした。よっぽど本人にガッツがあって、「是非とも営業をやりたいんです」とか言わない限り、営業職になんてなれません。
例えば私のお取引先のコープさんだと、今は女性がトラックの配送とかもやりますけど、当時の配送センターでは女性の採用は一切していませんでした。そもそも女性用のトイレもないし、女性は入ってもお店のレジだけ。時代を振り返ってみると、そういうのがだんだん崩れてきた30年間だったという気がしますね。
会社の「できないこと」に商機がある
柴田
そんな時代の流れの中で、今由紀子さんがやっている、企業の企画の推進や相談役的なサポートという事業が始まったきっかけを教えてください。
中山
元々私はグラフィックデザインの会社に勤務していました。そこでのプロジェクトというのは、クライアントの仕事を常に納期までに完了させるのがミッションでした。プロジェクトには社内外の人が関わるわけですが、そこのコンディションやコミュニケーション状態が良くないと、期限までにミッションが完了しないわけなんです。
そこで私は、社外の人であってもメンタリングをしていたんです。そんなことをやっていたら、結果としてクライアント側の部長さんから、お声がかかったんです。新人や異動したばかりのメンバーを「育ててやって下さい。よろしくお願いします」と。そういう教育も込みで仕事が来るようになったんですよね。
私は昔からそういう人を育てたり人を動かす素質があったんだと思うんです。この人の力量はこうだから、こんな褒め方なら行けるとか。
柴田
なんか、由紀子さんって親みたいですね。
中山
親というより親方とかコーチ的な感じですね。ただまんべんなく育てるというより、この子をこのフィールドで一人前にするという感じ。私は、現場を強くする親方的な能力が高かったので、クライアントからはその人材育成の部分を期待された部分があったんです。自分自身、そういうのは嫌いじゃなかったですし、その部分をやればやるほど当然仕事は進めやすくなるので、これは自分自身の仕事になる、とその時に思いました。
「なるほど。できないことがあるから依頼する。会社のできないことに商機があるんだ。こういう商売の仕方があるんだ。」という勉強をさせてもらったことがきっかけですね。
女性の法人化、周りの見る目がガラッと変わった経験
柴田
それから、いざ独立となっていきなり法人化されたのですか?
中山
法人化したのはフリーランスになって3年目くらいの時で、35歳くらいの時だったと思います。
柴田
それが20年くらい前だとすると、女性の起業としてはだいぶ時代の先を行っている気がしますが…女性のフリーランスって20年前は皆無だったんじゃないですか?
中山
デザイナーやクリエイターというのはちょっと特殊な業界なので、30歳前後のタイミングでフリーランスになる人は多かったですよ。会社に勤めているとその会社の仕事しかできないので、幅を広げたいと思う時期がくるんですよね。だからフリーランスになって、元々いた会社の仕事も受けながら、別の繋がりの仕事も受けるという感じで自分のキャパシティーを広げるために1回フリーランスになる人が多いんです。結局出戻りする人もいたりするんですけどね。
私は、当時いた会社の社長の事情で規模を縮小するタイミングがあり、独立をすることになりました。会社という後ろ盾がなくなって心細いなと思っていたのですが、いざ独立したら早速クライアントさんから私のところに電話が掛かってきて、すぐに仕事の依頼をいただけてホッとしたのを覚えています。
それからフリーランスで3年くらいやっていたんですけど、だんだん個人で受ける仕事ではない規模の仕事が舞い込んでくるようになったので、その時にいよいよ法人化かなという感じになりました。それで、いざ法人化したら、周りの見る目がすごく変わったんですよ。法人化した途端に急に大きなお仕事の依頼が増えました。これにはかなりびっくりしましたね。法人化しただけで、本気だって見られるようになったんです。
柴田
法人化すると税金的にはその分引かれちゃうものもありますけど、信用を買っているようなものですからね。
中山
特に私の場合、女性じゃないですか。女性で「フリーランスです」と言うよりは、「会社やっています」の方が良かったんですよね。それから、当時は女性で法人化したのは珍しかったかもしれません。
柴田
その頃に比べると、今は会社もすごく作りやすくなりましたよね。僕が独立する時、じいちゃんに「お前1,000万円もあるのか?」って聞かれましたからね。若い人が会社を作ることが増えてきましたけど、以前は会社を作るというのは、ある程度のお金を持っている人しかできないって感覚があったと聞いています。
さらに起業についてお伺いしたいのですが、ここ最近になってインキュベートとかアクセラレーションプログラムとかが出てきましたけど、女性の起業について由紀子さんはどのように見ていますか? 僕個人としては、「とりあえずやってみたら?」って言うのは、無責任だしめちゃくちゃリスキーだと思っているんですけど。
中山
うーん。私の場合は、既に独立をしていて、法人化するかどうかを迷っているという人の相談は受けますね。その時は、よくよく話を聞いた上で、「その気があるなら法人化した方がいいんじゃないか」という話をすることが多いですね。それは、さっき話したように自分の経験上、法人化することで世間の見る目がガラッと変わったからです。
事業を大きくしていきたいのなら、フリーランスのままでは大きくなりません。大きくしたい、伸ばしたいということなのであれば、法人化のタイミングはいつかだけなんじゃないかなと思っています。人を雇うかどうかは次のステップだから、そこは急がなくていいよとも伝えています。
私は起業をしているということだけで、業種が全然違う人からも相談がきたりするのですが、そういう時に女性で起業している人ってまだまだ少ないんだなと感じますね。相談が来た時には、「業種が近い人に相談した方が間違いないよ」と思いながらも、人と話すと整理されることがあると思うので、話を聞いてあげています。話を聞いて、整理した上で、「その業界で戦っていけるかどうかは私には分からないから、同じ業種の人にちゃんと話を聞いた方がいいよ」と伝えています。その人の気持ちと世の中の状況はリンクしていないこともあるわけですから。でも、業界によっては起業し時っていうのもありますよね。
これまでの時代の働き方とこれからの時代の働き方
柴田
僕は、起業することも1つの正解だと思うし、大企業に勤めることも、中小企業に勤めることも、そして女性なら専業主婦になることも正解だと思っているんですけど、由紀子さんなりの女性の働き方について教えてもらえませんか?
中山
仕事に対する男女の壁はなくなってきていて、これから先もその壁はどんどんなくなっていくと思うので、女性に対してだけの答えにはならないと思いますが、ちょっとだけ日本の歴史の話をさせてください。今までの日本は高度経済成長という、世界史的にも日本史的にも特殊な時代だったんですよ。人口ボーナスがあったので、経済の右肩上がりがあらかじめ決まっていました。人が増えると消費量も増えるから、経済は絶対右肩上がりになるわけなんですよね。
だから、こんなことを言ったら怒る人もいると思うけど、そんなイケイケの時代だったから、成果をあげたと言っている人たちは、本人の能力だけじゃなくて、誰がやってもうまくいった時代だったと私は思っているんです。もちろん努力して成功したという人もたくさん知っていますけれども、間違いなくそういう時代でした。その時代が、ちょうど今の若い人たちの親の時代なんです。そうするとですね、親のアドバイスは必ずしもあてにならないんですよ。
ちょっと厳しいことを言うようですけど、そのぐらい時代は違うんです。だから、過去の常識というのは、本当に特殊な常識なので、そのことが分からないでモノを言ってくる人のいう事を聞いてはいけないという事は若い人たちに伝えたいです。これは男女問わずです。例えば、私が就職した時というのは、銀行が花形でした。さらに私の歳よりも10年後くらいの時は大手家電メーカーなどの企業が花形中の花形でした。でも今は厳しい状態になっているじゃないですか? だから、1つ前の世代の人が言っている事を鵜呑みにしてはいけないということはハッキリと伝えたいんです。
柴田
正解を押し付けようとする人はいますからね。
中山
過去の自分が生きていた時の常識の中での良かれというアドバイスなんですよ。でも、その人たちは今の時代を生きていないんですから。「お父さん、お母さんの時代はそうだったんだね。僕のことを考えて色々言ってくれてありがとう」と受けた上で、少しずつ親離れをしていかないと、人生のリスクは高まってしまうかもしれないんですよ。
柴田
由紀子さんは、そういう親離れができていない子たちに会う機会はありますか?
中山
私が直接会う事は少ないんですけど、企業の採用のご相談に乗った時に、そういうケースに出会いますね。例えば、もう内定を出しているのに、親がその会社を知らないからという理由で内定辞退になったとか、リアルにあるんですよ。
その相談を受けた会社さんは、そこの会社自体はベンチャーだけど、大手の100%子会社だから雇用条件も全部親会社と同じなわけですよ。それなのに内定を辞退するという親のセンスは相当悪いじゃないですか? もしも「うちの子、あの大手企業に就職したの」って言いたいだけだったりしたら、そういう昔の感性に引きずられる人生はもったいないです。これからの時代の人はそこから一歩距離を置いた方がいいのかなという気はします。お互いに優しすぎるというのは考え物だってことですね。
これからの社会で必要とされる人材とスキル
柴田
由紀子さんが、これまで色々な人の人生観とか社会的な仕事観を見てきた上で、これからの社会で必要とされる人材に求められるのはどんなスキルだと思いますか?
中山
これが正解かどうかは分かりませんが、まずは明日がどうなるか分からない時代だという前提に立った方がいいと思いますね。明日ものすごい商品が発売されて、時代がガラッと変わるかもしれないし、それによってコミュニケーションのあり方とかも突然変わるかもしれません。そこで求められてくるのは柔軟性だと思っているんです。
これまで自分が培ってきたスキルを無理して使おうとするんじゃなくて、今できることをやるくらいの開き直りを持てる柔軟性が、これからの時代を生き抜いていくためには必要かなと思いますね。時代が変わるというのは、見方を変えればみんな初心者なのでチャンスなんですよ。だったらさっさと頭を切り替えた人が勝ちですよね。
過去のスキルにこだわっていたら出遅れるだけ。だから、これからの時代では柔軟性がますます必要で、それは若い人だけではなく、年齢問わずどの年代の人であっても柔軟性は持っておいた方が良いですよね。
柴田
柔軟性、大事ですよね。他にもありますか?
中山
今の仕事以外のネットワークを持っておくことも大事かなと思いますね。ネットワークというのは、つまり情報が入ってくる手段なんですよ。自分の生業の仕事を深く掘る人は多いんですが、それ以外のところで、全然関係ない分野のネットワークを持っておくことが実は大事だったりするんです。
私はそれが自分にとってのリスク分散だと思っていて、深堀する必要はないけど、これからの時代は、何が使えるか分からないからこそ、なるべく自分にとって関係ないものも持っておくべきだと思うんです。アーティストとかアスリートは別かもしれませんけど、ビジネスマンであれば、自分はこれがやりたいんだっていうのにこだわり続けるのは身を滅ぼすかもしれませんよ。
今後の挑戦、自分というプロダクトライフサイクルの更新
柴田
最後の質問です。由紀子さんが今後挑戦していきたい事を教えてください。
中山
実は私がいつも考えているのは、自分の対応期間を延ばすことなんですよ。自分の賞味期限と言ってもいいかもしれませんね。さっきの話にも関わってきますけど、立ち止まっていたら賞味期限って過ぎていっちゃうんですよね。立ち止まっていたら、仕事を頼まれなくなるのは当たり前のことですから。レストランだって3年に1回くらいリニューアルをかけますよね? それと一緒です。
柴田
プロダクトライフサイクルみたいですね。
中山
まさにそれ。仕事ではそれしか考えていないと言ってもいいです。だから、そのためには一時的に売上が下がってもいいと思っていて、自分というプロダクトの寿命を延ばすことが最優先だと思っています。
柴田
だから由紀子さんは柔軟なんですね。でも「私、もうこれで良いんです」って言う人っていっぱいいますよね。
中山
そう。私が40歳になった時に、友達が「もうこんな年齢だし、新しいことには挑戦できないわ」って言ったことがあって、その時私は本当にびっくりしましたね。「え、私はまだまだ挑戦したいことが山ほどあるんですけど??」ってね。
柴田
それは本当にもったいないですね。プロダクトライフサイクルを死ぬまで更新し続けるっていうのが由紀子さんにとっての挑戦なんですね。
中山
今後の挑戦としては、今、時代の流れをじっくり見ています。というのも、私は20代の時に自分のキャリア設計を考えた時に、自分のスキルを日本語に懸けました。私の老後までは日本の国はまだ経済的に強い国でいるだろうと思ったからです。でも、蓋を開けてみると、日本は全然強い国じゃなくなってきてしまった。だから今後、日本語というスキルだけで本当に戦っていけるのかという時代の流れを見ているんです。
今までは、日本の経済は良かったし、人口も1億数千万人いて、その人たちだけを相手に仕事をしていたら良かったわけですけど。でもこの先はヤバイっていうのを数年前から考えていて。だから時代の流れを読んで身に着けたスキルの1つが、整体の技術なんです。人の身体を癒すスキルに言語は関係なくて、このスキルがあれば最低限の生活はできるだろうという保険の1つですね。
柴田
すごいリスクヘッジかけてますね(笑)
中山
私、変態って言われるぐらいリスクヘッジが好きなの(笑) そしてもう1つのリスクヘッジは、やっぱり最低限の英語だろうなと思っています。私、英会話学校の仕事もしていたことがあるんですけど、実は英会話って高い学費を払えばできるようになるものでもないんですよ。結局は自分がやるかどうかだから。そう考えて、自分はどうやって日本語覚えたかということを思い出した時に、ひたすら本を読んでいたなと気付いたので、日本語の本を読んでいる時間を減らして英語の本を読み始めたんです。そうしたら、本を読んでいただけでTOEIC790点までいったので、今はまだ仕事で英語を使わなかったとしても、いずれ必要な時が来た時のための言語的なリスクヘッジもしてあります。
リスクヘッジの方向性は基本的にはプロダクトの寿命の更新です。貯金という方向には絶対に行かないですね。お金って、いつ紙くずになるか分からないですから。日本円っていうのは日本の国が無くなったら価値ゼロなんです。皆さんは全てのリスクを日本国に懸けているんですけど、そのリスクを分かっていません。言葉も日本語、お金も日本円、持っている土地も日本の土地。人間関係も日本人だけとなると、これはリスクですよ。
柴田
ほとんどの人は、「え、何言ってんの?」ってなりそうですけどね。
中山
そうですね。「よくわかんない」ってよく言われます(苦笑) でも、分かってくれる仲間がいてもいなくてもリスクヘッジはしておきます。でもね、もちろん自分の母語で生活できるのが一番良いことには変わりないから、そんなリスクが訪れないことを願っていますよ。けれど、やっぱりリスクというのはゼロじゃないから、後から騒がないようにしています。いろんな意味で今後の挑戦は、自分というプロダクトの更新とリスクヘッジですね。
柴田
由紀子さん、今日はありがとうございました。めちゃくちゃ面白かったです!
中山
こちらこそありがとうございました。
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今回は、有限会社オフィスボノボ 代表取締役 中山 由紀子氏にお話を伺いました。「これまでの時代」を生き抜き、「今の時代」をどう生きていくかを考え続ける中山氏だからこそ語れる「これからの時代の生き方」は、若い世代の人だけではなく多くの人にとって刺激になるお話だったのではないでしょうか? 明日がどうなるか分からない時代だからこそチャンスなんだ、だからこそ柔軟さが必要である、という話はとても心に残りました。あなたにとってどんな話が心に残りましたか? この記事を読んだあなたにとって、今後の時代を生きるヒントが見つかれば幸いです。
▶︎中山 由紀子
有限会社オフィスボノボ/代表取締役
コピーライター・プランナー
グラフィックデザイン会社勤務ののちフリーランス
2004年 有限会社オフィスボノボ設立
2016年 Lindoors株式会社 代表相談役に就任。
社長と社員など、知識・背景の共有が難しい同士を取り持つカルチュラルフィットの達人。