広告運用のスペシャリスト集団 アナグラム株式会社阿部氏に聞く、起業と組織のあり方【後編】

今回は、アナグラム株式会社 代表取締役の阿部 圭司氏にお話を伺いました。アナグラム株式会社(以下、アナグラム)は「身近な広告を通してより豊かな未来を創造するために」を企業理念に掲げている、広告運用のスペシャリスト集団です。そのスペシャリスト集団を率いる代表の阿部氏に、本対談で起業のきっかけから法人化、そして今の組織体制に至るまでを伺って参りました。後編では、アナグラムの組織運営について、また、若者へのメッセージをお話いただきました。PILES GARAGE編集長の柴田との対談をぜひ、お楽しみください。
 
以下
阿部:アナグラム株式会社 代表取締役 阿部 圭司
柴田:株式会社mannaka 代表取締役 柴田 雄平
 
 

チャットでのコミュニケーションでは明治維新はできなかった?

柴田
僕らmannakaはフルリモートのスタイルをとっていて、かたやアナグラムではリモートを推奨していませんが、そのあたりのお考えをお聞きしたいです。
 
阿部
僕たちがリモートワークを推奨していないのは、僕らの広告運用の仕事というのがお客様ありきだからです。お客様との信頼関係が生まれる前に、こちらがみんなバラバラに活動をしていると、信頼関係を作っていくのが結構難しいからという理由があります。チャットツールは確かに便利ですが、コミュニケーションの難しさってありますよね。無駄な争いや疑念を生んでしまったり、全然意図しないところで誰かが怒ったり、傷ついたりする。お互いが社内にいたらこういった無駄なことが起きないんですよね。やっぱり直接話している時の方が良いコミュニケーションがとれるんです。
 
実際にお客様にお会いする時も、ヒアリングしていくと表面的にお客様が言っていることと実際に叶えたいことが違うということはよくあります。「CPAは安ければ安い方がいい」と言っていたけれど、実は「CPAが高くてもちゃんと売上になるお客さんが増えた方がいい」とかね。やっぱりこういうコミュニケーションは大事にしないといけないですよね。
 
昔、誰かに聞いたことがあるんですけど「高杉晋作と桂小五郎の家は近かった。だから明治維新ができた」って。僕は気になったので、実際にどのくらい家が近いのかを山口県の萩市に実際に見に行ったことがあるんです。そうしたら本当に近くて、歩いて5分ぐらいだったんですよね。これだけ家が近くて松下村塾に毎日歩いて一緒に通っていたらそれは仲良くなるなって思いました。
 
きっとその時に、思想も近くなって、2人の間でいろんな発想が生まれたんじゃないかなって思っているんです。現代のチャットだったら、おそらくこの2人の絆って生まれなかったと思います。だからやっぱり社員はなるべく近くにいた方が、僕らとしては仕事もしやすいし、アイデアも生まれやすいと思っているんです。
 
一方で、一日8時間も一緒にいる必要はないとも思っています。きちんと集まる場があって、議論や質問ができて、疑問の解決ができればいいなと思っているので、ここ1年間ぐらい役員会でずっとZOZOTOWNみたいに「1日6時間労働」をやろうという話が何度も出てきているんですけど、最適解が出てきていません。
 

 

定量評価は定性評価をものすごく統計化したものだった

柴田
評価制度についてお聞きしたいんですが、アナグラムでは定性評価から定量評価に変えて、また定性評価に戻したと伺ったのですが、そのあたりの話を教えていただけますか。
 
阿部
これまではずっと定性評価だったのですが、定量評価に変えた時に社内では「働きやすくなった」という声がありました。「何をやったら給料が上がるのかが明確になったので仕事がやりやすくなった」という声が本当に多かったんです。でも、僕自身が実は定量評価が嫌いなタイプだったんですよね。実際に定量評価を試して業績も上がって、離職率もぐっと下がったので、すごいなとは思いました。自分が考えていることの逆のことをするとうまくいくんだとも思いましたね(笑)
 
さて、じゃあこれからどうしようかと考えた時に、いろんなところに情報を取りにいってみました。そして、定量評価をやってうまくいった部分を振り返ってみると、定性評価でも定量評価でも、どの人を評価するべきかが大体分かるようになってきたんですよね。なので、定量評価というのは定性評価がものすごく統計化されているんだという考えに至り定性評価に戻したんです。
 
今の評価は、半期に一度の幹部合宿で議論して決めています。この時に意識しているのは、「ちゃんと活躍している人には給与をちゃんと払おう」ということです。例えば、仮に他社で同じ活躍をした時に、そっちの方が給料高かったらそれは社員も嫌だと思いますし、何よりも僕がめちゃくちゃ嫌なので。
 
柴田
僕らの評価基準は、Yahoo!さんが取り入れている「誰と働きやすかったか」という信頼をベースにしたやり方をしています。このやり方では、1回プロジェクトが完了したらその時に「誰と働きやすかったか」というのを決めていくんです。
 
Yahoo!アカデミアの学長の伊藤羊一さんがリーダークラスのマネジメント講習の時に「誰と働きやすかったかを5段階で評価」してみると、上位にくるのはほぼリーダー層とかマネジメントがうまい人になり、そういう人が役員クラスになっていくんだと話されているそうで、僕らもその5段階評価を月一で見るようにしているんです。
 
僕らはその評価と自己評価を照らし合わせながら1on1などでマネジメントをしていっています。するとその人が気づいていない部分を伝えられます。他人の意見だと、割と納得いくことが多いので、修正すべきところは修正しながら長所を伸ばしています。
 
でも僕らはリモートワークなので、やっぱりどうしてもアウトプットの量でしか評価できなかったりする部分があります。定性的な部分はコミュニケーションを結構密にとっていかないとなかなか分からない部分が多いので、そこは課題ですね。
 
 

 
柴田
アナグラムでは、メンバーが働きやすい環境でモチベーション高く働けるためにどのようなことをされていますか?
 
阿部
いろいろやっていますが、最近では有給を使いやすいようにとか、パートナーの不満が出ないようにするということは結構考えていますね。例えば、普通の会社ではあんまりないと思うんですが、子どもやパートナーの誕生日に休めるとか。この休暇は有給を使わないものなんです。
 
こういった施策は従業員の働きやすさのためのものですが、いくら環境を整えても、このご時世なのでやっぱり独立する人は独立しますよね。自分もそうだったので、やっぱり独立って止められないんです。「独立します」って、勇気と覚悟を持って言っているじゃないですか。
 
柴田
アナグラムでは独立支援みたいなことは考えていたりしますか? 僕らの会社は独立願望を持っている人が結構いて、僕は事業が軌道に乗るまでは手伝ってあげたり、資金の面でもバックアップしてあげようと思っていたりします。
 
阿部
僕らの場合は、ちゃんと辞めた子に対しては、何かがあったらどんな大きなことでもいいので僕の力が叶う限りであれば、一回だけ助けてあげるということをしています。通称「シェンロン」と呼ばれていて(笑)それは当然、会社にいる時にコミットして一生懸命働いてくれて、会社にいろんなものを残していってくれた人で、理由があってきちんと辞めた子に限りますけどね。
 

若いうちはできることはなんでも経験した方がいい

柴田
阿部さんの経験で、若いうちにはこんな経験をしておいた方がいいよってことがあれば教えてください。
 
阿部
「経験出来ることは何でも経験した方がいい」と思います。僕は20代は貯金をする必要はないと思っているんです。日本にいたら、よっぽどのことがない限り、食べていくだけなら何をやったって生きていけますよね。ならば、若いうちに月に1万円貯金するよりも、その1万円でちょっと良いお店に行ったり、飲み会でいつもは割り勘なのに「今日はオレが奢るよ!」っていうとか、その方が今後の人生の可能性は高まるんです。だから若いうちは、お金じゃなくていろんな体験を貯めた方が、30代になった時にその経験が活きてくるんですよね。
 
例えば、僕の友達で面白い奴がいて、初任給20万円なのに、25万円のライダースジャケットを買ったっていう奴がいるんですよ。本当に馬鹿ですけど、でもこのネタって一生物なんですよね。気球に乗ったことがない人より、気球に乗ったことのある人の話の方が面白いのは当然のことです。
 

 
阿部
30代になってから、遊びすぎて破綻したり離婚したりする社長さんも結構いますが、遊びとかも含めて、やっぱりお金の使い方は20代のうちに覚えていた方がいいと思います。30代になると体力の限界もありますし、いろんな時間的制約もあるので、やっぱり20代のうちにいろんな経験をした方が良いと思いますね。
 
柴田
社員が「会社を辞めて独立したいんです」と言ってきた時に阿部さんはどんな風に話をしますか? 僕は「まずしっかりとした土台が出来上がって、その上にスキルが積みあがっていくので、まずマインドの形成をしっかりしなさい」と伝えているんですが。
 
阿部
僕のスタンスとしては、基本的には何も言わないようにしています。考えが甘かったとしても、それに対して僕が甘いっていうのは芽を摘んでしまう気がするので。もしかしたら言ってあげた方が短期的にはいいのかもしれません。でも長期的に見た時に、言わないで自分で痛い目を見て学んだ方がいいと思うんです。
人から教えてもらったことって身にならないじゃないですか? 自分もそういうタイプだったので。言わないというスタンスが冷たいと、捉えられるかもしれませんが、それでも今は僕は出来るだけ言わないというスタンスです。ただ自分も日々進化しているので、もしかしたら明日になったら、言うというスタンスになっているかもしれませんけど。
 
柴田
貴重なお話をたくさん頂きありがとうございました。とっても面白いお話でした。
 
阿部
こちらこそ、ありがとうございました。
 
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後編は社内コミュニケーションについて、評価制度について、そして若い世代に伝えたいメッセージと盛りだくさんの内容でしたね。初任給20万円なのに、25万円のライダースジャケットを買ったというご友人の話にもあるように、本当に若いうちにしかできない経験ってたくさんあると思います。「金を貯めるより、人に語れる特別な経験を貯めよ」を胸に刻み、日々を過ごしたいと思います。
 
今回の対談の前編では「運用型広告の素人から、プロフェッショナルへ」という起業に至るお話と「社員には、お客様にとって正しい仕事をしてほしい」という組織運営のお話を伺いました。そして後編では、「チャットでのコミュニケーションでは明治維新はできなかった?」「定量評価は定性評価をものすごく統計化したものだった」という組織運営のお話と、「若いうちはできることはなんでも経験した方がいい」という若い世代に伝えたいことを阿部氏から伺いました。
 
さて、あなたにとってはどんな話が胸に残りましたでしょうか? この記事を読んだあなたにとっても、これからの時代を生きるヒントが見つかれば幸いです。
 
前編はこちら
広告運用のスペシャリスト集団 アナグラム株式会社阿部氏対談【前編】
 
 
▶︎ アナグラム株式会社
身近な広告を通してより豊かな未来を創造するために
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