「識学」で日本の組織マネジメントを変革する、安藤氏の挑戦【前編】

今回は株式会社識学 代表取締役社長 安藤 広大氏にご登場いただきました。「識学(しきがく)」とは、人の意識構造を研究した学問「意識構造学」をベースにした組織マネジメント理論。株式会社識学では、識学を使ったコンサルティングを提供し、クライアント企業の組織改革の支援を行っています。通信業界、人材業界でキャリアを積んだ安藤氏が識学に出会い、その理論をビジネスとして事業展開するに至った経緯と、独立までの紆余曲折についてお話を伺いました。PILES GARAGE編集長の柴田との対談をぜひ、お楽しみください。
 
以下
安藤:株式会社識学 代表取締役社長 安藤 広大氏
柴田:株式会社mannaka 代表取締役 柴田 雄平
 

組織のパフォーマンスを最大化する「識学」メソッド

柴田
まずは、御社の事業である識学について教えていただけますか。
 
安藤
識学とは、組織から誤解や錯覚を取り除くことで組織のパフォーマンスや個人の可能性を最大化するメソッドです。組織内ではしばしば、リーダーの発言や行動が誤解や錯覚を生み出して、組織全体の成長を阻害してしまうことがあります。そうした言動を修正することで誤解や錯覚を取り除き、組織の動く速度や生産性をアップさせ、全体のパフォーマンスを向上させる。それが売上の向上にもつながるというロジックですね。
 

 
柴田
株式会社識学を設立するまでの経緯を教えてください。
 
安藤
2001年に早稲田大学を卒業し、2002年に株式会社NTTドコモに入社しました。4年間勤めて、ライク株式会社(旧ジェイコムホールディングス株式会社)に転職。6年半ぐらい在籍していたんですが、取締役営業副本部長を務めました。会社を辞める間際に識学と出会い、「識学という考え方を世の中に広めたい」と思って、半年間ぐらいベンチャーに関わった後に独立しました。
 
柴田
独立した当初は何歳でしたか?
 
安藤
33歳ぐらいですかね。
 
柴田
その時は結婚されていましたか?
 
安藤
はい。子どもが生まれる1か月前でしたね。
 
柴田
独立するって結構チャレンジだと思うんですけど、奥さんの反応はいかがでしたか?
 
安藤
最初は戸惑ったようです。でも「好きなようにやってみたら」という感じでしたね。
 
柴田
NTTドコモに入社した頃から独立を考えていたんですか?
 
安藤
全く考えていなかったです。「自分がトップに立って何かをする」というイメージがなくて、むしろ自分には向かないと思っていたんです。祖父と親父も会社を立ち上げたんですが、どちらも上手くいってないんですよ。血筋的に向いてないから、絶対辞めておこうと思ったんですけど。
 
柴田
独立して5年が経過しましたが、会社のメンバーはどのように選定しましたか?ある程度、意図的に組織づくりをしているんでしょうか。
 
安藤
独立してすぐに、現在の営業の責任者が入ってくれたんです。彼はいわば会社の右腕的な存在です。だから次に左腕として、信頼のできる優秀な人間を採用しようと決めました。ベンチャーって、最初の時点ではバックヤード側の売上に寄与しない人材にお金をかけないことが多いですよね。バックヤードの部分を社長が全部やっちゃうじゃないですか。そうすると事業を拡大するための業務の時間をうばわれてしまうと分かっていたので、両腕となる人材はとにかく早く採用したんです。ある程度の規模になってからは、それぞれの責任者が採用を決めているので、僕は面接に関わっていません。
 
柴田
識学を身につけるために苦労した点などはありましたか?
 
安藤
前の会社では約70名の組織のトップを務めましたし、早稲田大のラグビー部で120名くらいの組織を経験していました。そうした経験があったので、識学の考えは非常にしっくり来ましたね。
 

企業で積んだ実績を、独立に活かす

柴田
識学をビジネスに展開しようと考えたのは、何かきっかけがあったのですか?
 
安藤
最初は「ビジネスにするのは難しい」と思っていたので、1年半ほどは個人で動いていました。独立してしばらくは、ある企業の営業支援をしていました。営業の支援をしながら、識学を基に組織運営の見直しや活性化もするという契約で。そうした中で試行錯誤するうちに「これなら組織化してもうまくいくかも」という感触があって。その後、他の企業にも営業し始めたんですが、どこに行っても上手くいくんですよ。「これはほぼ確実にいけるな」と確信して、2015年の3月に会社を創業しました。
 

 
柴田
会社から独立する時って、いろんなリスクがあったと思うんですけど、そのあたりはいかがですか。今の若い世代を見ていると、会社を辞めてフリーランスになったものの、経験が浅いために立ちゆかなくなるケースも多いようですが。
 
安藤
どんな仕事も、評価するのは“人”なんですよ。会社で上司の評価を得られない人が、独立して市場からの評価を獲得できるわけがない。上司はどうすれば評価を得られるのか教えてくれますが、市場は教えてくれません。会社で評価されない状態で、組織から逃げて独立しても上手くいきませんよ。僕は会社で成果を残したから独立しても上手くいったという、ただそれだけです。
 
柴田
僕としては、若い世代の人たちには大企業なりベンチャーなりである程度働いて、経験を持った上で独立してほしいという気持ちがあります。
 
安藤
そうですね。やっぱり一番は組織運営なんです。組織を動かす力もなく、「アイディアで勝ちたい」というのでは勝てない。もちろんスーパーアイディアを出せて、それだけで勝ててしまう天才も中にはいます。でも、僕らみたいな凡人は、アイディアだけで勝つことはできないという前提で独立すべきだと思います。
 

「会社にいる」=「給料がもらえる」ではない

柴田
現在の社員で、20代の方はいますか?
 
安藤
新卒社員が3人います。
 
柴田
20代はそんなに多くないんですね。
 
安藤
事業の内容的にそうなってしまいますね。メンバーはマネジメント経験者ばかりです。
 
柴田
識学では、人間の思考の癖を理解した上でのマネジメントの方法を教えていますね。若い世代は、どのような思考の癖があると考えますか。
 

 
安藤
若手が陥りがちなのが、世の中の仕組みに対する誤認ですね。一例として「お客様にサービスを提供して対価をいただき、その対価の中から従業員が発揮した有益性に対して給料が発生する」という事実の仕組みがあります。若い世代はここで、給料以上の有益性を発揮しなくても給料は獲得できると思いがちです。つまり「会社にいるだけで給料を獲得できる」という勘違いを起こすんですよ。
 
そうなると何が起こるかというと、大きく2つあります。1つは、会社が有益性不足になって立ちゆかなくなるということ。もう1つは、有益性を発揮できない従業員を置いておくわけにはいかないので、辞めてもらうということですね。「会社が評価してくれない」とブーブー言っても、その組織にいる以上は評価するのは会社であり上司なので、上の評価を獲得できなければどこの組織にいっても使い物になりません。その点に対する誤認は大きいですよね。どこに行っても「会社が悪い」と言い、その状態でフリーランスになっても市場に評価されずに仕事がないという。悔しかったら、まず会社で偉くなってみろということですよ。
 
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今回の対談の前編では、安藤氏が事業展開している「識学」について、その理論とメソッドについてお話を伺いました。また、携帯電話業界で幅広いネットワークを培った安藤氏が企業を辞めて独立し、事業を開始するまでの道のりについても語っていただきました。
“若い世代の陥りがちな誤認の罠”については、安藤氏の指摘のとおり、無意識のうちにそうした思考に陥ることがあると、はっと気づかされました。対談の後編では、めざすべき上司・部下のあり方について、また現在の日本の問題点と、同社の今後の展望について、お話を伺っています。
 
後編のテーマは「組織に良い影響を与える上司・部下とは」「日本の組織マネジメントの問題点」「まずは目の前の職務で成果を出そう」です。後編もぜひご覧ください。
 
▶︎株式会社識学
組織をもっと、強くする。組織マネジメント論「識学」
HP:https://corp.shikigaku.jp/