三井住友海上、海外M&A向けの保険を投入 日本企業の海外M&A過去最高で

はじめに

2017年6月7日(水)の日本経済新聞に、三井住友海上火災保険株式会社(以下、三井住友海上)が海外現地法人によるM&Aリスクを補填する保険を投入したそうです。
 
三井住友海上といえば、三井住友海上グループホールディングス株式会社(以下、MS&AD)の傘下の企業です。MS&ADの業績や海外M&Aにはどのようなリスクがあるのでしょうか?それぞれ解説していきます。
 

MS&ADの財務状況

MS&ADは2年間で売上高が約14%、経常利益が約23%向上し、毎年ROEが改善されています。
 
保険業界の会計処理では、顧客と保険の契約を締結すると、将来の保険金の支払いのために、保険契約準備金を負債の部に計上します。
 
MS&ADでは負債の部の90%が保険契約準備金であり、この2年間で負債が増えた要因のほとんどが保険契約準備金であるため、自己資本比率が低下しているのはむしろ契約の件数が増加していることが示唆されます。
 

Table 1 MS&ADの財務状況
 

海外M&Aの推移

国内の人口減に伴う、需要の減少により、どの産業においても成長のためには海外への進出が必須となります。
 
MS&ADにおいても海外展開は進んでおり、2014年度の海外売上高比率が6.3%でしたが、2016年度には13.0%まで上昇しました。そして今回、海外に現地法人を持つ日本の企業に対し、保険のサービスが展開しました。
 
近年のグローバル化に伴い、海外の企業が関わるM&Aが増加しています。Chart 1に金額の推移を示しました。
 
図中のIN-INは国内企業が国内企業に対してM&Aを実施した金額、IN-OUTは国内企業が海外企業に対してM&Aを実施した金額、OUT-INは海外企業が国内企業に対してM&Aを実施した金額となります。
 
図を見て分かるとおり、IN-OUTの件数はOUT-INの金額に比べて圧倒的に高く、日本企業が海外企業に買われるより、日本企業が海外の企業を買う方が多いことが分かります。このように日本企業は海外の企業を買収するケースが多いことを背景にMS&ADは保険の導入をしたのだと考えられます。
 

Chart 1 日本と海外のM&Aの推移
(出典 : レコフデータベースより作成)
1996年は02月23日~1996年12月31日
2017年は01月01日~2017年06月09日
 

海外M&Aのリスク

M&Aに際して行うDDとは?

では、海外のM&Aにはどのようなリスクがあるのでしょうか?通常、M&Aを行う際は、最終的な契約の締結や価格の決定の前に、DD(Due Diligence)を行います。
 
DDとは買収される企業について詳細に調査することであり、決算書が合っているかどうか、決算書に載っていない簿外債務、簿外資産が無いかなどをチェックする財務DDや、買収後の税務のリスクを精査する税務DD、買収企業のステークホルダーと締結している契約に関するリスクが無いかを調べる法務DDなどがあり、M&Aの前に買収される企業について詳細に調査が行われます。
 

MS&AD、海外M&Aのリスクをカバー

しかし、詳細に調査を行っても、すべてのリスクを見つけるのは不可能です。M&Aが実施された後に、未払給与などの簿外債務が発見されるケースは多々あり、買収をする側が支払った金額に見合わない価値であったことが事後的に分かることが時々あります。
 
また、M&Aをしたものの、予想より企業間のシナジーが生まれず利益が出ない場合や、お互いの企業の文化や方針が合わず、計画していたほどの利益が出ず、買収した企業が損失を計上することが頻繁にあります。今回のMS&ADの保険はこれらのリスクに対応したものと考えられます。
 
実際に、2017年4月22日、日本郵政株式会社(以下、日本郵政)が海外M&Aに関連する大規模な減損を計上しました。このケースでは、日本郵政がオーストラリアの物流会社トール・ホールディングスを買収するに際して計画していた利益を出せないと判断し、のれん代を償却処理しました。下記に、この報道を詳しく解説した記事を紹介します。

 

MS&ADと海外M&Aのまとめ

以上、MS&ADの紹介と、海外のM&Aについて解説していきました。
 
海外企業との提携というと華やかなイメージがあり、M&Aの後に新聞に大々的に紹介されることもあります。
 
しかし、全てが上手くいくわけではないので、これらの企業のためにMS&ADのサービスがより展開されていくのが望ましいですね。
 
 
 
編集者:株式会社mannaka
協賛 :株式会社エスネットワークス
 

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