企業内弁護士を詳しく解説
近年、企業で役員や社員として働く「企業内弁護士」が増えています。企業内弁護士とは何でしょうか?以前の記事でも企業内弁護士について簡単に紹介いたしました(2017年5月9日「『企業内弁護士』とは? 役割とは? 15年で約20倍に急増!」)。今回は、企業内弁護士とは何か、どのくらい増加しているのか、なぜ増加しているのか等を更に詳しく解説していきたいと思います。
企業内弁護士の概要
企業内弁護士の定義
日本組織内弁護士協会によると、企業内弁護士とは、「日本法に基づく会社、外国会社の日本支社、特殊法人、公益法人、事業組合、学校法人、国立大学法人等、国と地方自治体以外のあらゆる法人に役員又は従業員として勤務する弁護士のうち、当該法人の所在地を自身の法律事務所所在地として弁護士登録している者」をいいます。簡単に言えば、企業内弁護士とは「企業で役員や社員として働く弁護士」ということです。インハウスローヤー、インハウス弁護士、組織内弁護士とも呼ばれます。(http://jila.jp/pdf/transition.pdf)
企業内弁護士の仕事
企業内弁護士の仕事は多岐にわたります。取引先との契約締結から知的財産の管理、取締役会・株主総会対応、労働紛争の解決、ロビー活動、コンプライアンスシステムの策定など様々です。
企業内弁護士の仕事は所属する企業や部署によっても大きく異なります。例えば、医薬品業界の企業に所属する企業内弁護士の仕事では特許ライセンス契約などの知的財産関係の業務や、薬害・医療過誤訴訟など訴訟対応が特徴的でしょう。はたまた、情報通信業の企業に所属する企業内弁護士の仕事なら新規インターネットビジネス等のビジネスモデルや契約スキームの策定といった、新規事業立ち上げにかかわる業務が特徴的です。
企業内弁護士の人数
日本組織内弁護士協会によると、2017年6月末時点では937社で計1,931人の弁護士が働いています。2007年は104社で188人でしたので、10年で社数・人数がともに約10倍になったことが分かります。法律事務所に登録を残したままパートタイムや出向などの形で企業内弁護士として働いている弁護士が多数存在していることを踏まえると、実質的な企業内弁護士の数はさらに多いと思われます。
(https://www.nikkei.com/article/DGKKZO20126810Y7A810C1TCJ000/?n_cid=SPTMG002)
(http://jila.jp/pdf/transition.pdf)
企業内弁護士が多い企業
下記の表は、企業内弁護士の採用数が多い企業上位20社の一覧です。左が2007年時点のもの、右が2017年6月末時点のものです。表から分かる通り、従来企業内弁護士を多く採用していたのは外資系金融機関でした。近年では、日系企業が上位を占め、業種別では保険、金融業のほか卸売・小売業や情報通信業が増えています。また、1社当たりの企業内弁護士の数も大幅に増えていることが分かります。
(http://jila.jp/pdf/company.pdf)
企業内弁護士と顧問弁護士の違い
企業内弁護士の特徴
では、外部の法律事務所に属する顧問弁護士と企業内弁護士の役割はどのように異なるのでしょうか。顧問弁護士と比較したときの企業内弁護士の特徴は2点あります。
第1に、法的問題の解決のみならず、その前後の対処も期待される点です。企業の法務部門の業務フローは、大まかに述べると「法的問題の発見」→「解決方針の策定」→「問題解決」→「再発防止策の実施」です。このうち、顧問弁護士が期待されるのは「問題解決」の部分ですが、企業内弁護士はこのフロー全体をカバーすることが求められます。
第2に、新規事業の法的リスクへの対処が期待される点です。企業内弁護士は、新規事業立ち上げの段階からプロジェクトに携わり、新規事業が適法かどうか、どのような法的リスクが懸念されるかを精査することが求められます。
(https://www.nichibenren.or.jp/recruit/lawyer/inhouse/company/qa_company.html#02)
企業内弁護士がいれば顧問弁護士はいらない?
企業内弁護士を採用すれば顧問弁護士が不要になるというわけではありません。むしろ、企業内弁護士と外部の弁護士が協働することで、より効率的に法律事務を処理することが可能になります。企業内弁護士は、企業の内情に精通している強みを活かし、社内で案件に効率的に対処できます。一方で、高い専門性が要求される業務や、作業量が大きい業務を顧問弁護士が引き受けることによって、効果的な分業体制を築くことができます。
企業内弁護士は所属企業と顧問弁護士との重要なパイプです。普段は社内で他の社員からの相談を広く受け、問題が発生した場合には事実関係や論点を整理した上で顧問弁護士に依頼をし、顧問弁護士と密に連携しながら問題解決を図ります。他の社員からすると、法律のプロフェッショナルがいつでも社内にいることは心強いですし、顧問弁護士からしても、法的な議論をしやすいでしょう。
(https://www.nichibenren.or.jp/recruit/lawyer/inhouse/company/qa_company.html#02)
なぜいま企業内弁護士が求められているのか
企業内弁護士が増加している背景には、以下のようなことが挙げられます。
企業内弁護士増加の理由① グローバル化の進展
企業の海外進出が増加するにつれ、企業は幅広い組織内法務の整備を求められるようになりました。具体的には、現地法人の設立、合弁事業、M&A、進出国でのコンプライアンス構築、現地法律事務所の選定、起用、対外折衝、行政対応などです。企業によっては法的基盤が整っていない国への進出など、法的リスクが特に大きいため、専門家である弁護士を社内で雇って対処する動きが高まりました。
(http://www.bizlaw.jp/interview_jurinavi_01_01/)
企業内弁護士増加の理由② 規制緩和
2001年に発足した小泉内閣は大幅な規制緩和を進めました。法務分野では、会社法、証券取引法、金商法の改正に伴い、従来は官庁に事前に相談していた企業が、自ら法的リスクを判断せざるを得なくなりました。しかし、従来の企業内の人事育成手法で高度な法務人材を自前で育成することは難しく、結果として企業内弁護士の採用が増えました。
(https://www.nikkei.com/article/DGXNASDG24028_U4A510C1CC1000/)
企業内弁護士増加の理由③ 法的未整備な分野での新規事業
近年、ITを活用した新たなサービスが続々と登場しています。IT分野に関する法律はまだまだ未整備であり、新規事業を立ち上げる際は企画段階で法的に問題がないかを精査することが重要です。事業環境が瞬く間に変わるため、新規事業の法的リスクを早々に解決し、競合他社よりも先に新製品・サービスを市場に投入する必要があります。それゆえ、企業の事情に精通しスピーディーな対応が可能な企業内弁護士が重宝されているのです。
今後も企業内弁護士は増加か
経営環境の変化により、企業内弁護士の需要が高まっています。今後も法的リスクの複雑さはさらに高まると思われ、企業内弁護士を採用する企業が増えていくでしょう。
編集者:株式会社mannaka
協賛 :株式会社エスネットワークス
財務・会計系コンサルティング会社。
ベンチャー企業やローカル企業にCFOコンサルティングを行っています。
「経営者の輩出」を企業理念とし会計や財務の実務支援能力だけでなく、 CFOとして求められる知識や経営センスをより短期間で身に付け、育成することを目指しています。
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