今回は、今注目のベンチャー企業、株式会社おかんの代表の沢木氏にお話をお伺いします。
株式会社おかんのサービスである法人向けぷち社食サービス「オフィスおかん」は、そのコンセプトの分かりやすさが社会的時流に乗り、テレビ東京・NHK・TBS・日本経済新聞などに取り上げられ、瞬く間にその認知度を広げました。前編では、沢木氏に株式会社おかんがサービスをスタートさせてからの話と、社内の人材育成などについてお話を伺います。
以下
沢木:株式会社おかん 代表取締役 沢木 恵太
柴田:株式会社mannaka 代表取締役 柴田 雄平
法人向けぷち社食サービス「オフィスおかん」のスタート
柴田
今回のテーマは、「ベンチャーから一気にグロースした、今注目のベンチャー企業 株式会社おかんの人材育成方法」ということで話を聞きたいと思います。では、いつも通り2人の出会いについてから話をしていきましょう!
沢木
2人の出会いは…たしか三十路祭りの前身団体のイベントで出会った感じでしたよね?
柴田
そうでしたね。2人とも同い年なんですよね。85年の世代って谷間世代とか言われて、本当にろくなのがいないですよね(笑) それが2年前くらいかな? おかんは既にその時ありましたが、今は何期目になりますか?
沢木
株式会社おかんは、2012年12月に設立なので、今は5期目になります。メイン事業のぷち社食サービス「オフィスおかん」は、2014年の3月スタートなので、今3年ちょっとくらい。なので、出会った当時も「オフィスおかん」はあって、本当に立ち上げたばかりでしたね。「オフィスおかん」がスタートした後には、最初VCで、サイバーエージェント・ベンチャーズとオイシックスから資金調達をしました。
柴田
なるほどなるほど。資金調達は何回かけてるんですか?
沢木
公開しているのは2回ですね。
柴田
大体どれくらいの金額?
沢木
非公開です(笑)ざっくりと1回目は数千万円で2回目は億です。
柴田
なるほど。非公開なのにありがとう(笑) ではおかんが最初の頃に、大変だったことを教えてください。
沢木
はい。そもそも、「オフィスおかん」は2つ目の事業で、1つ目は個人向けの惣菜の定期宅配のeコマースから事業をスタートしました。その時、構想としては法人向けのものもあったんですが、個人向けの方が初期投資がかからなかったので、まずはそっちからスタートしました。だけどなかなか計画どおりにはいかなかったんです。当時のスピード感だと、それだけでは食べていける状況ではなくて。僕は子どもが2人いる状態で起業していて、妻も専業主婦だったので自分が稼いでいかなきゃいけなかったんです。でもこれじゃ食えないっていうことで、もう諦めるのか、最後にやりたいと思っていた法人向けサービスにチャレンジするのかを考えて、結局法人向けサービスにチャレンジして、それが今のような形になっています。
柴田
すごい失礼かもしれないんですけど、食えなくなるレベルってどれくらい…?
沢木
会社の預金残高が一桁万円で、自分の家の残高も一桁万円みたいな(苦笑) それが27、28歳くらいの時です。その時は、「いよいよやばいから、ここ1、2か月で決断しなきゃ」みたいなそんな状態でした。その時は社員はいなくて1人でやってましたね。
「オフィスおかん」のグロースポイント
柴田
グロースのポイントって何回かあると思うんですけど、法人向けのサービスをスタートしてからはどうだったんですか?
沢木
法人向けサービスはかなり恵まれていて、PRがうまくいき露出することができて、初期の頃から比較的引き合いが結構あったんですよね。サービスローンチから3か月後くらいには、最初の資金調達ができました。そこでようやく僕の役員報酬が出始めましたね(笑) それまでは役員報酬なんてなくて、むしろ自分が入れてるみたいな状態でした。
柴田
初めて社員を雇ったのは、法人向けのサービスを開始してからですか?
沢木
そうですね。サービスを3月にローンチして、3ヶ月後の6月1日入社が正社員第1号でしたね。6月1日入社、6月3日に資金調達完了みたいな感じでした。6月1日にオフィスも借りて、6月から急に会社っぽくなりました。
柴田
自分の中で考えていた「オフィスおかん」の構想は、今起きているグロースと結構似ていますか?
沢木
んー、そもそも法人と個人がこんなに差異が出るとは思っていなかったです。最初、個人向けでスタートして、これでもやれると思っていたので。でも今は、戦略的にそうしているところもあるんですけど、会社の売上の比率は、今9対1ぐらいで法人向けの方が多くて、そこは想像していなかった部分です。法人向けサービスも、もちろん当たると思ってやったものの、こんなにメディアで社会的に紹介頂いたりするくらい、受け入れてもらえるとは思っていなかったので、そのあたりは期待以上というか、予想以上ですね。
「オフィスおかん」のサービスのビジネスモデルの独自性
柴田
4年前は、「オフィスおかん」のサービスって、どの会社もやっていなかったと思うんですけど、今になって、競合関係の会社も出始めてきて、競合と自社でどこが強みになっているか教えてもらえますか?
沢木
オフィスで物を提供しているビジネスモデル自体は、僕らがやる前から大手の菓子メーカーさんとかやっていたんですけど、実はそれと「オフィスおかん」のビジネスモデルは大きく違っているんです。
彼らは設置が無料で1個が100円という小売型のモデル、言い換えるとBtoE(Business to Employee)というモデルなんですね。
一方、僕たちはそれとは違う全く新しいものを初めてやった会社で、それがBtoBtoEモデルと呼ばれる月額料金を企業様から頂いて、その対価となる役務提供として、従業員のみなさんに何かしらを提供するモデルなんです。それも菓子メーカーさんと同じく1個100円ですが、ビジネスモデル上は小売ではなく、Saasに近いサブスクリプションのビジネスモデルに変えたんです。これがビジネスモデル上の特徴でもあり、かなり優位性であると考えています。捉え方が全く変わるのでその部分でかなり違いがあります。
最近はローソンが後発でオフィス向けサービスを始めました、というのがあったりするけれど、BtoEモデルなので、モデル上はやっぱりかなり差異があるんです。あと、提供している価値が食事なのか、菓子類、飲料なのかという差もあります。我々は食事ど真ん中で、そして常設型でやっていて、実はまだ他にはいないんですよ。仕出し弁当とかはあるし、オンデマンドのファストデリバリー系のものはあっても、フルーツでも野菜でもなく、食事ど真ん中でやっているところというのはまだまだ競合がいない状況なので、あまり周りを気にせず、我が道を行き、着実にやってるような感じですかね。
柴田
なるほど。「オフィスおかん」のスタート時から、商品開発も結構やってきたと思うんですけど、今どれぐらいの種類の商品を抱えているんですか?
沢木
毎月メニューが入れ替わっていますけど、ひと月あたり大体約20種類くらいのお惣菜が並んでいます。ただ、メニューはどんどん入れ替わっていくので、プールしている商品をいっぱい持っていながら、新しいメニューをどんどん開発しています。プールしている商品は100種類ぐらいあると思います。なので、常に社内に商品開発担当がいて、全国各地のパートナー企業さんと常に半年先くらいの商品の共同開発をやり続けています。
「オフィスおかん」のPR戦略
柴田
おかんはPR戦略とか広報戦略、宣伝戦略と言われているような部分をすごい上手にやってるなっていう印象があるんですけど、狙ってやってる部分とそうでない部分について教えてほしいです。狙っていない部分というのは、社会的に、環境的に、日本の文化的にみたいな部分があるんじゃないかと思っているんですけど。
沢木
そうですね。PRの重要性は私自身がすごく感じていて、オフィスの中で企業が月額料金を投資して、福利厚生として日常的なものを提供するというのは、これまでそんなに多くなかったと思っているんです。福利厚生って、どちらかというと非日常的なものに対してある感じで、あまり当たり前のものとして成り立っていないな、と。だから、そもそも当たり前として成り立たせるための啓蒙活動が必要なので、そういう意味でPRが必要だなと思っていました。それに、社会的時流にどうやって乗せるかというところもあるだろうなと思っていて、それが働き方改革、女性支援、健康などいろいろなキーワードがちょうど重なっていたので、PRを重視している考え方と、それがすごくうまくシナジーを起こして今の結果に至っているんじゃないかと思いますね。
柴田
そうすると、事業が順調に成長していく要因を、いくつか挙げてもらえますか?
沢木
ひとつは新しいビジネスモデル上の特殊性というのがあったと思います。もうひとつは、ブランディングというか、わかりやすいってことがすごい重要だなということですね。エンドユーザーからすれば、「オフィスおかん」って提供される価値が分かりやすいじゃないですか? ビジネスモデルも一般的な人から見ても分かりやすいですよね。そして、ネーミングも分かりやすい。ネーミングもめちゃくちゃ重要だと思っているんです。これらと広告や戦略、社会的時流の3つがちょうど噛み合ったのが、結果としてすごくよかったかなとは思いますね。もちろん、それを生み出すためのオペレーショナルな部分をどう構築していくかとか、マーケティングをどうしていくかとか、細かい部分もありますけど、ベースとしてはこのあたりかなという気がしています。
株式会社おかんの人材育成について
柴田
この事業を、ゼロイチで1人で始めて、今、社員が結構いますけど、人が増えていくことにおいての苦い経験があれば聞かせてください。
沢木
人が増える上での良いことは、できることの範囲がかなり広がることですよね。一番最初は自分自身がお客さん先を訪問して、食材の補充や、現金回収まで、Tシャツで汗かきながらやっていましたからね(苦笑) サービスクオリティが上がっていくことはすごく実感をしています。一方、あえてネガティブなことを言うと、人が増えていけばいくほど、ベクトル合わせをすごく意識しないといけないですね。
私たちは、「働くヒトのライフスタイルを豊かにする」というミッションをかなり強く掲げていて、このミッションを実現するために、会社や人や事業が存在しているという位置づけでやっているので、こういうミッションやカルチャーが一致する人を、以前よりもかなり意図して、採用するようにしています。もちろん、社内でもすごく意図して、繰り返しそういう話をしながらやっています。我々のビジネスモデルがオペレーショナルなビジネスモデルなので、チームワークをすごく重視しなければいけなくて、その必要性が強いチームの場合はベクトル合わせを必要以上に高めていかないといけないんです。良くも悪くもそこに対するリソースはかなり使っているので、そのあたりが以前に比べると、違っている部分かなという気はしますね。
柴田
では、おかんの中での人材育成について聞いていきたいんですけど、こんなことやってるよってことがあれば教えてもらえますか?
沢木
そうですね、僕らはスタートアップなので、イケてる研修制度とかがあるわけではないです。なので、どういうマインドでやっているかというところですが、会社の方針、つまり僕の方針ってことになっちゃうんですけど、社員育成って基本的に子育てと一緒だと思っているんです。社員を家族や、大切な人だと思っていて、僕は子育てにおいても将来、自分がやりたいことを実現することを後押しすることが、父親や家族の役割かなと思っているんです。僕は子どもに対して能動的な選択が取れるような人材になって欲しいなと思っているんですけれども、それは同様に社員たちにも思っています。だから、基本的に普段の接し方も受動的な選択をさせないようにするということをしています。なので、権限委譲や、意思決定を任せるということに対して、すごく雑な言い方をすれば、丸投げをするということも意図的にやっていて、自分が考えなきゃいけない、自分がやらなきゃいけない範囲を広げていく、あるいは自分が色々なことを主体的に取り組むようにしなきゃいけないという部分を意図してやるようにしています。
通常の役割だけではなくて、プロジェクトいう横串のものを複数走らせて、そのプロジェクトは、メンバーが主体的にやるようにして、アサインもメンバーが自由にできるようにして、自分たちが責任をもってアウトプットしていくっていう文化を作っていたりということはかなり意図的にやっていますね。なので、良くも悪くも、僕が現場に介入するということはあまりしないようにしています。基本的に僕は採用とか組織開発とか、そういうことに時間を使っているような印象ですかね。
柴田
なるほど。実際にそういうことをやっていると、社員さんが能動的な選択ができるようになっていくと思うんですけど、それができるようになるまでにどれくらいのPDCAを回しているのかということや、一人一人に対してのアプローチの仕方をどのようにしているのかとか、おかんの教育方針を教えてほしいです。
沢木
もちろん人によってかなり差があるとは思いますが、僕は基本的には正しいミッションでベクトルが揃っていて、素直・誠実であれば、成長の度合いはあれど、成長するだろうなと思っています。すごくカチッとやっているわけではないですが、今、全メンバーと1on1ミーティングを毎月やるようにしています。メンバーが自分自身の課題を見つけるとか、それをどうやったら解決できるかというアクションを考えるとか、その部分をティーチングではなく、「自分自身がこんなことをチャレンジしようと思うんだ」ということに対して、「僕はこういう形で応援するよ」みたいなスタンスでやるようにしていますね。そういう機会を作ると、定期的に自分のことを振り返るようになって、自分自身の客観的な課題を把握するようになりますし、その話が出た後に、「僕はあなたのことをこういう感じで評価をしているので、このあたりをもっとやれるといいよね」というようなフィードバックもしているので、そういった現在地を理解してもらいながらコミュニケーションをとっています。
もうひとつ僕が意識的にやっているのは、期待値をいつも伝えるようにしているということです。だから、何かできないことがあった時に、「◯◯ができなかったよね」ではなく、「僕の期待と違うよね」みたいなコミュニケーションを取っています。これは、業務的な目標ではなくて、人間的な成長という部分で、こういうこと出来るようになってほしいとか、こういう視座で僕とコミュニケーション取って欲しいとか、そういう話を意図的にするようにしています。これらをその人、その人に全部合わせてやっていますね。本人がどうなりたいのかということもかなり重要ですしね。
柴田
1on1をやろうと決めたのは、なぜですか? そこまで1on1をやっている会社というのは、僕もあまり見たことがなくて、珍しいなと思うんですけど。
沢木
みんなからも声が出てきてましたね。人数が増えれば増えるほど、僕とコミュニケーションを取る機会は減ってしまうので、そうすると成長云々の話だけじゃなくて、僕の考えがちゃんと伝わらないことがあって、逆にみんなが僕に対して自分の考えを伝えに来たりとか、そういう機会をもっと増やしたいという声は上がってきていました。1on1をうまくやっている会社で有名なところだとヤフーとか、いろんな会社の話を聞いていたりして、僕は業務的な把握は別に細かくしなくてもいいやと思っていたですけど、人間的な成長というところに対しては細かく把握したいというところもあって、1on1というスタイルが一番いいのかなとも思ってやっていますね。
柴田
経営者として聞きたいのが、社員とのコミュニケーションで大切にしていることとして今話してくれたこと以外に、何か業務的なスキルの部分で求めることはあるんですか?
沢木
弊社の採用基準もそうですし、社内でもそうなんですが一番優先順位が高いのが、ミッションフィットと呼ばれる部分です。その次がカルチャーフィットと呼ばれるもので、その次がポテンシャルフィット、そして最後がスキルフィットと呼ばれるものだと言っているんですね。
専門的なスキルについては、僕から何か言うことはまずないですし、むしろそれはそれぞれのメンバーが、多分僕より出来るはずなので、それはどうでもいいなと思っています。
ただ、重要なのはポテンシャルフィットで、結局このフェーズの会社なので、明日やるべきことが変わる可能性があるわけです。新しいことにチャレンジしないといけないことが往々にしてあったりするという時にどれだけ今までの経験を応用して、活かすことができるか。あるいはそういったことにも対峙できるような思考性を持っているかということがすごく重要だなと思っています。チャレンジに対するハードルが低いとか、当事者意識を持つことができるとか、リーダーシップ発揮できるとか、そういったことはみんなに対して期待しています。
そしてもうひとつ、スキル的なところでいうと、仕事の仕方ですね。そもそも、仕事は目的と手段があって、この手段をどうブレイクダウンして、どう優先順位をつけて、どうやって周りの人たちを巻き込んで、どうやってそれをどう周りの人たちにフィードバックや報告をして、どう進めていくのがいいんだろうというところです。ぶっちゃけ仕事の仕方さえ完璧にできる人であれば、多分なんでもできると思っているので、そういう意味で仕事の仕方みたいなところはすごく意識をしているところがありますかね。
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今注目のベンチャー企業、株式会社おかんの代表の沢木氏に話を聞きました。前編では、株式会社おかんがサービスをスタートさせてから社会的時流に乗り、注目を集め、一気にグロースしたという話と、その背景にあった独自のビジネスモデル、そしてそのオペレーショナルな部分として社内の人材育成などについてお話を聞いていきました。注目を浴びている企業の裏側にある苦労や工夫、そして働く人のお話は大変刺激的でした。後編ではさらに深い話を聞いていっていますのでぜひお楽しみに!
▶︎株式会社おかん
「働くヒトのライフスタイルを豊かにする」をミッションに活動しています。
HP:https://company.okan.jp/