はじめに
11月16日、日経新聞「新型社債、株主にやさしい? 転換リスク 将来の株安要因に」という記事に、リキャップCBについて書かれていました。それを機に今回は、リキャップCBが行われた過去の事例の紹介と、なぜリキャップCBが資金調達の方法として選ばれるのかの検討をおこないます。
リキャップCBとは?
リキャップCBとは、新株予約債権付社債(CB)の発行によって得た資金を、自社株買いに使うことです。
リキャップCBのリキャップとはリキャピタライゼーション(Recapitalization)の略で借入金の割合を増やし、株主資本を圧縮することを意味しています。リキャップCBをおこなうことによって、自己資本利益率(ROE)を上げることができるため、企業価値の上昇や投資家による投資が期待できます。
CB、リキャップCBの詳しい説明は「リキャップCBのメリット・デメリット 小手先の財務改善との批判は本当か?」にありますので、より理解を深めたい方はそちらもご覧になってください。
リキャップCBの過去の事例
最近注目を集めているリキャップCBですが、数々の有名企業が過去にリキャップCBを行っているので、その事例の紹介をしていきたいと思います。
リキャップCBの過去の事例①「日本ハム株式会社」
日本ハムは、平成26年3月26日に約300億円のCBを発行しました。日本ハムはCBを発行した目的を以下に記します。日本ハムは、新たな経営目標としてROEを設定することにより株主価値向上につなげていきたいと考えていました。そこでROE7.0%の達成を目指すため、CBを発行すると同時に、その資金を自社株式取得のために使うというように説明しています。
(日本ハムプレスリリース(平成26年3月7日)を参照。)
ここで特徴的なのは、日本ハムはCBで得た資金をほぼ全て自社株買いに使っていることです。そうすることで、株主資本が圧縮されますが、純利益は変わらないので結果的にROEを高めることができます。企業側としては、目標のROEに近づくことができる一方、投資家側も投資した額を株式に転換して保有することができます。ROEの上昇により株価の上昇が見込まれるので、投資家にとっても利益が生まれやすくなっており、Win-Winの関係になっています。
リキャップCBの過去の事例②「株式会社ベストブライダル」
ベストブライダルは、平成25年9月3日に50億円のCBを発行しました。資金調達の目的は、「地域1番店戦略」にもとづく展開を図り名古屋駅南に広がる大規模な開発エリア『ささしまライブ24』への新規出店をはじめとする大型店舗の開発等、今後の成長が見込まれる分野への資金投下を積極的に実施するとともに資本効率の向上と経営環境の変化に対応した機動的な資本政策を実行するためです。
(ベストブライダルプレスリリース(平成25年9月3日)を参照。)
ここで特徴的なのは、ベストブライダルがCB発行で得た発行手取り金4,960百万円のうち5分の1程度しか自社株買いに使っておらず、残りはすべて設備投資に使っているという点です。ベストブライダルは設備投資がメインの目的で、ROE上昇は“ついで”であるという印象が残ります。このように、目的の違いによってリキャップCBの意味合いも変わってくることがわかります。
リキャップCBの多様性
このように、リキャップCBは目的によって構造が多岐にわたっています。CBで得た資金の全てを自社株買いに使い、文字通り“リキャピタライゼーション”を低金利ですることもできれば、設備投資に重きを置いた資金調達を低金利で行い、そのついでに株主資本から負債に再構成することで、CBの発行による株主利益の希薄化を少しでも緩和して投資してもらいやすくするという戦略をとることができます。
なぜリキャップCBが選ばれるのか?
上記にもある通り、リキャップCBは最近多くの企業で行われています。どうしてリキャップCBが資金調達の方法として選ばれるのでしょうか。大きな理由としては、発行企業、投資家、証券会社が三者とも利益が得られるWin-Winな構造があげられると考えます。
CBはそもそも株式に転換可能なメリットがあるため金利はゼロになることが多いです。さらに冒頭の日経新聞の記事によれば、過去のリキャップCBの価値を試算したところ理論的な価格より債権が平均8%ほど割安に設定されているそうです。そのため、投資家はCBを買って転売するだけで6%ほどの利益を得て、販売する証券会社も2%ほどの手数料を得ることが可能と述べられています。
よって、企業は低金利で資金調達することができ、投資家はCBを買って転売するだけでも利益を得られ、証券会社は手数料を得られるため、非常に有用な資金調達方法として用いられているのだと考えられます。
より良い資金調達のために
今回は、リキャップCBについて取り上げましたが、ほかにも様々な資金調達方法があります。そのため今後も様々な資金調達方法について、過去の事例を参考にしながら理解を深めていくことが、より最善の資金調達をすることにつながっていくと思います。
編集者:株式会社mannaka
協賛 :株式会社エスネットワークス
財務・会計系コンサルティング会社。
ベンチャー企業やローカル企業にCFOコンサルティングを行っています。
「経営者の輩出」を企業理念とし会計や財務の実務支援能力だけでなく、 CFOとして求められる知識や経営センスをより短期間で身に付け、育成することを目指しています。
エスネットワークスは、「経営者の視点でニーズを掴み、経営者の視点で課題を解決し続ける、最強パートナー」を実現すべく、成長し続けています。
エスネットワークスのサイトはこちら
株式会社エスネットワークス
mannakaのサイトはこちら
株式会社mannaka