「企業間レンタル移籍」株式会社ローンディール 原田 未来氏と考える新しい人材育成のかたち【前編】

今回は、 株式会社ローンディール 代表取締役の原田 未来氏にお話を伺いました。株式会社ローンディール(以下、ローンディール)は、「出向を活用し、人材をベンチャー企業のプロジェクトに参加させる仕組み」を提供しています。新しい価値を創りだす実戦的な経験を通じて、イノベーションを起こせる人材や、組織に変革を起こすことができる次世代リーダーを育成しています。
 
代表の原田氏は、自身がベンチャー企業と大手企業のそれぞれの良さを経験してきた中で「企業間レンタル移籍という人材育成」のアイデアを得たといいます。本対談では、原田氏のビジネスアイデアのきっかけから「企業間レンタル移籍」を通じて実現したいことなどを伺って参りました。PILES GARAGE編集長の柴田との対談をぜひ、お楽しみください。
 
以下
原田: 株式会社ローンディール 代表取締役 原田 未来
柴田:株式会社mannaka 代表取締役 柴田 雄平
 

企業間レンタル移籍という人材育成サービス、ローンディール

柴田
まずは、ローンディールの事業について説明をお願いします。
 
原田
ローンディールというサービスは出向を活用し、人材をベンチャー企業のプロジェクトに参加させる仕組みです。新しい価値を創りだす実戦的な経験を通じてイノベーションを起こせる人材・組織に変革を起こせる次世代リーダーを育成します。簡単に言うと「大企業からベンチャー企業への出向という形をとる研修のようなもの」で、期間は半年から1年間かけて行われます。
 
人材育成が主目的なので、基本的に人件費は大企業側が持ち、研修としてベンチャーに行くという感じです。一方、ベンチャー企業側にも大企業の人材がやってくるので多少の費用負担をしてもらってはいます。移籍先のベンチャー企業については、人を育てることが大事だというマインドを持っている会社かどうかということを大事な基準としています。
 
柴田
大企業からベンチャー企業に行くメンバーの年齢はどのくらいの方が多いですか?
 
原田
平均年齢は32歳ぐらいで、入社4~10年目の間くらいの方に適していると思っています。仕事に慣れ、スキルが身につき、会社に対しての愛着が湧き始めるのに3年ぐらいかかり、まだパラダイムが凝り固まり過ぎていないのが30代前半ぐらいまでかなと思っているからです。
 
柴田
この事業を思いついたのはいつ頃のことですか?
 
原田
僕自身が一度、転職を経験したのですが、実は転職するか起業するかを迷っていた時に、この事業を思いついていました。当時はまだ自分の子どもが小さかったこともあり、起業をすることがちょっと怖くて足踏みをしてしまっていたんですよね。最初は副業でやってみようとか、やり方をいろいろ模索したのですが、糸口が掴めず、周りの人に相談しても「無理じゃない?」という答えばかりだったんです。
 
僕自身の経歴としては、大学時代からベンチャー企業でアルバイトをしていて、その会社でそのまま社員になり13年間勤務していました。20代で管理職になり、会社は上場し、新規事業にも数多く取り組みました。本当に良いタイミングで会社に入社してたくさんの経験をさせてもらったのですが、なんとなく「井の中の蛙感」を感じていたんです。なので転職をすることにしました。転職をしてみると、外の世界に出て初めて分かることがたくさんありました。
 
当然のことながら、会社によって企業のカルチャーもビジネスモデルも違いました。いろいろなことがあった中で一番勉強になったのは、自分が13年間在籍していた会社のことがクリアに見えるようになったということでした。物差しが1つしかないような状態から、物差しが増えたことによって、これまで見えていなかった課題感や、逆にもちろん良かったところもたくさん見えるようになりました。
 
この時に感じたのは「会社を辞める前にこの視点を持つことができなかったのは非常に勿体無いことだった」ということです。それはもちろん個人にとってもそうですが、企業にとっても勿体無いことだったと思うんです。ベンチャー企業も成長のステージによって求められることも変わってくるので、組織にとっても個人にとっても外を見るということはすごく大事だと思ったんです。
 
しかしながら、欧米型の「転職しながらキャリアアップする」という文化が、果たして日本企業に合うのかという問題もあります。日本のカルチャーにあった流動性の起こし方や、人の動き方を作りたいと思い、何よりも自分自身がそういう仕組みや環境があったら良かったなと心底思ったので、それを事業化したんです。
 

 

新しいことに挑戦できる人材を求めて

柴田
30代になって、結婚して子どもが生まれ、転職や起業ができないという人は大勢いると思うので、そういう人たちに対して、大企業側からベンチャーで働くという選択肢を出してあげるというのは素晴らしいことですよね。一方、大企業側も人材を手放したくない、囲っておきたいという願望は当然あると思うので、リスクもあるのではないか? と思ってしまうのが正直なところですが…
 
原田
そうですね。まず現実問題として、大企業側も人材を囲い込めなくなっているということがあります。あらゆる会社で離職率という課題は顕在化しています。そして既存事業だけでは立ち行かなくなっているので、新しいことをやっていかないといけないという危機感もあります。そんな中で新しいことに挑戦できる人材が必要だけれど社内にいないという課題感があるので、多少のリスクを背負ってでも、こういうことをやっていくべきだと判断してくれた会社が弊社のサービスに取り組んで頂いています。
 
利用いただいている企業は、CVC(コーポレートベンチャーキャピタル)や、アクセラレーションプログラムに取り組んだ結果、求める人材が出てこなかったというところが多いように思います。またこうした課題意識がメディアによって顕在化されていることも追い風となっていますね。
 

 

やりたいことが見えているなら大企業でしっかりと学ぶべき

柴田
企業の中で新規事業の立ち上げやダイバーシティ戦略がある一方で、個人事業主も増え、働き方が多様化していますが、そんな中で原田さんが考える、若者が大企業に入るメリットなどを教えてください。
 
原田
やりたいことが見えている人は大企業に行った方がいいかなと思っています。やはり大企業の教育研修ってしっかりしているんですよね。基礎的なビジネスマナーやプレゼン資料の作り方、コミュニケーションの知識・スキルなど、細かいことまできちんと教わることができます。こういった知識やスキルを教わらずに持たないままに起業してしまうというのは、勿体無いことだと思うんです。だから、やりたいことがあるなら、こういった基本的なビジネススキルは一度身につけておいた方がいいと思います。
 
今の日本では、大企業に行った人はベンチャー企業に移ることはできても、ベンチャーに入った人が大企業に移ることはなかなかできませんよね。大企業で学べることはやはり大きいので、きちんと学んでおくことは大事だと思います。
 
また、起業したり個人事業主になる人は、たしかに以前に比べたら増えているとは思いますが、決してマジョリティではなく、組織に入るという人がやっぱり多いと思うんです。どれだけ副業解禁だといってもマジョリティは変わらないと思うので、大企業で働くこと、ベンチャー企業で働くことの選択肢についてはしっかりと考えた方が良いと思いますね。
 

一つの会社で頑張っている人に外から自社を見る機会を作りたい

柴田
最近のM&A事情で、人材不足によって黒字倒産をしている企業が後を絶たないという話を聞きました。人材不足によって、企業が倒産してしまうことはとても勿体無いことだと思っているので、日本全体を考えた時に、このサービスがそういった課題解決にも繋がっていったらいいなと思っています。
 
原田
まずこのサービスで実現したいことは、一つの会社で頑張っている人に外から自社を見る機会を作りたいということです。どこで働いているから良いとかではなくて、今いる場所で頑張れない人は、どこに行っても頑張れないと思うんです。逆説的なんですけど、だからこそ今いる場所でもっと頑張るために一度外を見るということが大事だと考えています。海外に行ったら、日本の良さが分かるという感じに近いかもしれません。
 
テクノロジーがどんどん進化する中で、どの大学を卒業したかという相対的な優秀さを測る世界は崩れていて、個人個人がもっと個性や価値、プレゼンスを出さないといけない時代になってきていると思います。
 

 
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今回は、株式会社ローンディール 代表取締役の原田 未来氏にビジネスアイデアのきっかけから「企業間レンタル移籍」を通じて実現したいことなどを伺って参りました。原田氏自身がベンチャーと大企業のそれぞれの良さを体感し、転職、起業を経て、自身の原体験を元に未来の働き方を創造したというお話はとても刺激的でしたね。原体験を元にした未来の創造、新しい価値の提供への志を形にすることの大切さ、難しさが感じられました。
 
後編ではローンディールの今後の事業展開についてお伺いする中で、組織論についても議論させていただきました。後編もぜひご覧ください。
 
▶︎ 株式会社ローンディール
企業間レンタル移籍という人材育成ローンディール
ローンディールは出向を活用し、人材をベンチャー企業のプロジェクトに参加させる仕組みです。
新しい価値を創りだす実戦的な経験を通じて、イノベーションを起こせる人材・組織に変革を起こせる次世代リーダーを育成します。
HP:http://loandeal.jp/