年間1,000人以上の経営者に会う世話人 杉浦佳浩氏から見た「社会に『欲しがられる経営者』とは?」【前編】

今回のテーマは、「年間1,000人以上の経営者に会う世話人から見た、社会に『欲しがられる経営者』とは?」代表世話人株式会社 代表取締役の杉浦佳浩氏に、株式会社mannaka 代表取締役社長 柴田雄平が、お話を伺いました。
 
以下
杉浦:代表世話人株式会社 代表取締役 杉浦 佳浩
柴田:株式会社mannaka 代表取締役 柴田 雄平
 

世話人から見る、最近の若手の経営者の印象

柴田
「年間1,000人以上の経営者に会う世話人から見た、社会に「欲しがられる経営者」とは?」という切り口で、今日は杉浦さんにお話を伺います。杉浦さん、よろしくお願いします。
まず、杉浦さんと僕の出会いですが、たしか僕と同い年の経営者の仲間がいて、その彼が「変なおじさんがいるから会わないか?」と言われてお会いしたのが、杉浦さんだったんですよね。
 
杉浦
そうそう。変なおじさんです(笑)
 
柴田
出会って大体2年ぐらい経ちますかね。ちょうど僕が『三十路の会』という企画で1,000人くらい集めて、それをやり終えた時くらいに会ったんですよね。
 
杉浦
そうです。柴田さんの最初の印象は、「すごい方がいるなぁ」でしたね。
 
柴田
ありがとうございます。杉浦さんは、東京と関西に拠点を置き、最近の若い経営者にもたくさんお会いになられていると思うんですけれども、20代とか30代前半くらいの経営者たちの印象ってどうですか?
 
杉浦
自分の世代と比べると、機会提供に触れる場面が多いと感じています。それってすごく大事で、機会があるかないかで全然変わってくると思うんですよね。
で、今の時代はその機会を得やすい時代に入っていると思うんですよ。私たちの若い頃というのは、もう30年も前で、インターネットなんてありませんでした。ただ、最近の若い人たちを見ていて思うのは、機会をうまく活用できているかどうかの差はあるな、と思います。機会に対する向き合い方の違いに個人差があるな、と。
 
柴田
そうですね。でも、機会ってひと口に言っても、いろんなパターンがありますよね。
例えば、SNSを介して出会いはいくらでもあったり、企業がオープンイノベーションのために、アクセラレーションプログラムをしてみたりとか、VCのファンドとか。いろんな種類があって、うまくいっている人もいれば、その反面、うまくいってない人たちもいますよね。
 
杉浦
そう、与えられることに慣れている人がいるんですよね。機会は同じようにあっても、与えられることに慣れっこになっていると、やっぱりうまくいかないです。
例えば、東京と大阪を比べると、与えられる機会が、実は大阪の方があったりするんですが、大阪では与えられ慣れすぎているような印象を受ける場面もあったりするわけなんですよ。
 
一方、私がお会いする東京の紹介者や、紹介していただいた経営者の方々って、結構自立感がある人が多いと感じるんですよね。もちろん、そうではない人達もいると思うんですけど。
例えば柴田さんもすごく自立してるじゃないですか。経営者として自立していて、資金調達しなくても会社経営をされている。私は自立感があるかどうかって、ものすごい大事なことだと思うんですけど、それって、そのための機会提供をものにできてるかどうかってことかなあとも思いますね。
 
柴田
僕の個人的な印象だと、東京は大阪よりもチャンスは多いんじゃないかと思っていますね。資金力という面でも、圧倒的に東京の方が大きいな、という印象があります。
僕が独立した4、5年前くらいって、めちゃくちゃVCブームみたいのがあったんです。みんなVC、VCみたいな感じになって、それこそM&Aだったりとか、バイアウトとかが結構あって。でも、その当時、大阪でっていうのは全然聞かなかったですね。だから「それって、どういった違いがあったのかな」と思っていたんです。

杉浦
それは、そういう機会がなかったんでしょうね。それと、機会に対する甘えという部分もあったから、「大阪で独立してます」という方って少なかったんじゃないか、と思いますね。
 
 

世話人から見る、伸びる経営者の資質

柴田
杉浦さんって、1日10人とか、ものすごくたくさんの人に会うじゃないですか。 そんな中で、”この経営者は伸びる”、とか”伸びない”って、会って少し話しただけで分かることはありますか?
 
杉浦
やっぱり、いい意味での大義がある人や、世の中に良いインパクトを与えたいと思っているかどうか、というのが見えた時に、「この人は伸びていくな」って思いますね。この人は、目先のお金だけを稼ごうと思ってるなぁ、というのは喋っていたら分かります。あと、従業員を大切にしない、ものを投げ捨てるようにいなくなっていくとか、お客さんとの長い付き合いができていない会社とかもね。
 
柴田
杉浦さんの中で、この経営者は伸びるよねっていう人には、例えばどんな資質があると思いますか?
 
杉浦
まずは自分の意見がちゃんとあること。そして、スピード感があって、意思決定も早いこと。あとは、きちんと向き合って話ができるっていうことや、人の言うことをきちんと聞くことができる、とかですかね。
 
一方で、ビジネス上の資格を持ってるとか、MBA持ってるっていうような人ほど、人の言うこと聞かなかったりしますよね。「私はどこどこの会社いました」とか、「私こういうことやってました」とか。
「いやいや、それはそうかもしれないですけど、それってあなたがやったんじゃなくて、会社が用意した組織の中でやっただけですよね」みたいなのを全く理解していなかったりする…それって、東大入った人が全員偉いとかっていう感覚と全く同じじゃないですか?

 
 

イノベーションを起こすためには歴史から学べ

柴田
そういう意味では、僕なんか大学も出てないですし。(苦笑)
海外の大学みたいに、入るのが簡単で、出るのが難しいみたいな、そういうのって企業にもあってもいいかなと思いますね。そこに入って、何をやってきたかというところと、あと、会社を起こしたのなら、その後に何をやるのかって、ものすごい大事だと思っています。
杉浦さんから見て、これから先の若い経営者たちに向けて、これを大事にすべきだよ、ということはありますか?
 
杉浦
そうですね。例えば、こんな資料がありまして…これって柴田さんにお見せしたことありましたっけ?
 
発行:日野町立近江日野商人館
 
柴田
見たことないです。え、これすごいですね!
 
杉浦
これは近江商人の経営理念の資料です。簡単に説明しますと、これは今から約200年前の1802年に、78歳の山中さんというおじいさんが書いた、家の憲法で、『家憲(かけん)』というんです。
この訳を人によく見せるんですけど、これを見た時に、私が仲良しの人は100%全員共感してくれるんですよ。これをいろんな経営者に見せると、「明日の朝礼で言います」とか、「社長室の後ろの額に入れておきます」とか、「ノートに挟んで、毎日読むようにします」とかね、みなさん、そう仰るわけですよ。
結局、こういう家憲に書いてあることを大事にしていたから、この近江商人って広く知られるようになったんです。私は、これを一日がかりで滋賀県まで勉強しに行ったんですよ。今は、ネット上でも結構出てきますけどね。
 
柴田
これは、今の経営者にとっても、ひとつひとつが結構大事なことだと思いますね。
 
杉浦
そうですよね。例えば、二宮金次郎さんって、誰でも知ってるじゃないですか。でも、二宮金次郎さんって一人で、あれだけのことができたわけではないですよ。 あの人に資金提供していた人たちがいるんです。それが、実はこの近江商人たちなんですよ。
でも、それを自分たちが資金提供したっていうことを、この人たちは一切言わないんです。陰徳善事なんですよ。徳は陰で積みなさい、ということです。この陰徳善事が転じて、三方よしになっているんです。
要は経営理念、家憲というものが大事ですということが、学ぶべき大事なことの一つだと思います。
 
そして、もう一つ大事だと思うことがあります。それは、イノベーションのやり方は、すべてここから学ぶことができるということなんですね。この歴史の全てがイノベーションなんですよ。
どういうことかというと、この近江商人の何が一番イノベーションかということなんですけど、近江商人ってその名の通り、商人だって思うじゃないですか。 でも実はこの人たち、全員農民だったんですよ。これって、実は誰も知らないんですね。元々農民だった人たちが、商人化していくプロセスこそイノベーションだな、と思います。

 
 

イノベーションは200年前の日本にも起きていた

柴田
200年前の日本にもイノベーションは起きていたんですね。
 
杉浦
そう。そのためには、まずは情報が必要だったんです。なぜなら、近江には幕府の官僚が来ていたんですね。天領だったから。中央政府の情報がまずあったんですが、これに対してまずルールを疑ったんです。
 
そして、まず最初に、パラレルキャリアを認めさせたんですよ。簡単に言うと、農民にアルバイトさせてくれと言って、お椀づくりを始めたんです。農民が冬の間にお椀づくりをして、漆塗りにして、大量生産して、それを売りに行かせてもらうということの了解を取ったんです。了解を取っていたから売りに行くことができて、そしてお金が入ってきた、という話なんです。
 
そうしたら次は、お椀を作る木がなくなってきたので、木を鳥取県まで取りに行って、鳥取に住む同じ農民に対して、下請け産業をやってくださいと交渉しに行って、その後150年間も木を提供してもらったんです。始めは、農民はここまでしかできないというルールが全部あったのに、それをちゃんと一つ一つ了解を取っていって、そのうちに下請け産業を作って、お椀作って…っていうことをやったんですね。
 
そして今度は、そのお椀を持って行商しに行かせてくれって言ったんですよ。だから、多くの人は、「近江商人は行商しに行って儲けた」みたいな話は知っているんだけど、そういう変遷があったということは知らない。すべて突拍子もなく、いきなりお椀を売りに行ったわけじゃないんです。
 
さらに、この人たちがすごいのは、お金が回っている江戸、大阪、京都とかに一切売りに行っていないことなんです。田舎に売りに行っているんですよ。当時の農村って、貨幣経済がないから、お金がないんです。でも、お金がないところにお椀を売りに行くんです。すると、何が起こるかといったら物々交換が起こるわけなんです。お米が取れたところの村に行って、「年貢の余った分のお米をください、大豆を下さい」と言って、酒蔵を作ったり、お味噌を作る工場を作ったんですよ。それが最終的には1,000店舗までいったわけですよ。
でもそうすると、薄利多売になってしまうので、当時流行っている旅館とか蕎麦屋と、代理店契約を結んだりもしていました。
 
そういうビジネスの展開の礎みたいなものが、近江商人が起こしたイノベーションの中にはたくさんあるんです。そして、最終的に彼らは年貢を現金で払わせてくれって言ったんですよ。
 
柴田
農民なのに、お金があるから年貢を現金で払うなんてすごいですね。イノベーションですね。
 
杉浦
だから、一つ一つの段階をいかに踏んでいくか、手前の問題解決をいかにやっていくかで、イノベーションって最終的にはとんでもないことになってくるわけです。このようなことを私は勉強しに行きました。
 
柴田
なるほど、すごいですね。これは一代じゃ絶対やりきれないですね…そしてさらに組織として、それが浸透して、いろんな人たちが巻き込まれていったんですね。
 
杉浦
さらに、彼らは商人組合まで持っていたんです。昔って、村八分じゃないけど、何人かが集まってこういうことをするじゃないですか。 だけど、彼らがすごいのは、彼らの商人組合では江戸とか京都とか大阪の商人も組合員だったんですよ。だから、栄えている土地から新しい情報が入ってきて、福利厚生的な待遇もあったりして、それで収益が回るような仕組みをいたるところに作ったんです。
 
柴田
素晴らしいですね、そう考えると彼らってむちゃくちゃ頭いいんですね。
 
杉浦
それもやはり自分たちの現状に満足をしない、ということなんです。今ある情報を素直に聞いているから、「あっ、こうすればいいんじゃないの?」みたいな改善が進む。それって企業が伸びていくことに直結してますよね。
長く商売するための答えはここにあるので、そういうことに対して素直に反応する人が、いい経営者なんじゃないかなと思います。
 
一方で、「私は人の言うことは聞きません、今うまく行ってますからこれで行きます。」っていうのって、たしかにその頑固さが大事な場面もあると思うんですが、今の時代ってそんなの一瞬で崩れるじゃないですか。
 
長々と話しましたが、経営者として伸びるか伸びないかみたいなのはそういうことかなと思います。
 
柴田
なるほど。ありがとうございます。すごくわかりやすい話でした。農民だった人たちが、200年もかけて、すごい壁とかにめちゃくちゃぶつかりながら一つ一つ壁を乗り越えていった。そういう情報を素直に聞ける素直さが経営者として伸びるか伸びないかの一つの要素だってことなんですね。
 
 
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年間1,000人以上の経営者に会う世話人の杉浦氏から見る、最近の若手の経営者の印象や、伸びる経営者の資質についてお話を頂きました。そして、過去のイノベーションの事例として近江商人について、近江商人の何がイノベーションなのか? どれほどすごいイノベーションだったのか? などについて事細かに語って頂きました。
さらに【後編】では、「社会から真に必要とされる経営者像」や「経営者を目指す若者が身につけるべき力」、「世話人がこれからの若い世代へ送りたいメッセージ」などについてお話を伺います。
ぜひお楽しみに。
 
▶︎代表世話人株式会社
「人と人をつなげる人でありたい」という言葉を胸に、人と人、企業と企業を繋ぐ活動をしています。経営者目線とモノづくり目線、両方を体感、経験して、人をつなげたら、新たな付加価値が創造されます。これからも多くの人の繋がりから新たなことを生み出して、微力ながら大阪を、日本を元気にしていきたいと考えております。
HP:https://sites.google.com/a/100-dream.jp/top/
杉浦佳浩 official website:http://100-dream.jp/