パナソニック、パナホームを完全子会社化
2017年8月31日、住宅事業子会社のパナホーム株式会社(以下、パナホーム)が臨時株主総会を開き、親会社パナソニック株式会社(以下、パナソニック)による完全子会社化に向けた株式併合に同意しました。パナソニックがパナホームを完全子会社化するというニュースです。
このニュースは一見すると普通の買収に見えるかもしれません。しかし、最近話題のコーポレートガバナンスについて考える良い例になると現在密かに注目を集めています。
今回はこのパナソニックによるパナホームの完全子会社化について解説します。
パナホーム完全子会社化の経緯
まず、あまり聞きなれないニュースだと思いますので完全子会社化の経緯を時系列に沿って説明します。
パナソニック、パナホームの完全子会社化を発表
2016年12月20日、パナソニックは発行済株式の54%を所有するパナホームを株式交換により完全子会社化することを発表しました。株式交換とは自社の株式を対価として他社の株式を取得することです。パナホーム株1株に対してパナソニック株0.8株で株式交換を行うとしました。これは発表時のパナホームの株価に直すと約977円になります。
異議を唱える海外ヘッジファンド オアシス
これに対して香港のヘッジファンド、オアシス・マネジメント(以下、オアシス)がパナホームの企業価値は過小評価されており少数株主にとって不利であると指摘しました。オアシスのCIO(最高投資責任者)セス・フィッシャー氏は日経ヴェリタスの記事で以下のように述べています。
「パナホームは700億円超の現金をパナソニックに吸い上げられ、現金が有効活用されておらず、株価低迷の要因となっていた。今回の株式交換はこの低評価をもとに若干のプレミアムをのせて比率を決めている。これは少数株主の持つ価値がパナソニックによって奪い取られたようなものだ」
(引用:https://oasiscm.com/wp-content/uploads/2017/03/Nikkei-Veritas-article-re-PanaHome-March-4-2017.pdf)
海外ファンドのオアシスの指摘によって今回のニュースは脚光を浴びるようになりました。
パナソニック、株式交換をTOBに変更
その後、2017年4月にパナソニックは株式交換を撤回してTOB(株式公開買い付け)により1株1,200円での買収に変更すると発表しました。
TOBとは「いつまでに、何株を、いくらで買いますよ」と告示して不特定多数の株主に買い付けの勧誘を行い、株式市場外で株式を買い集める制度のことです。
パナソニックは2016年12月22日の税制改正によって税制上のメリットを受けられるため株式交換からTOBに変更にしたと述べています。TOBの価格は株式交換の価格と比べて約20%の値上がりとなりました。
パナソニック、TOB完了 パナホーム、上場廃止へ
そして、2017年6月、パナソニックはTOBを完了しパナホーム株式の約80%を取得しました。パナソニックが残りの株を買い取ることで9月27日パナホームは上場廃止する予定です。続いては問題の中身について詳しく見ていきます。
利益相反の問題をはらむ親子上場
今回のニュースを理解するために重要なキーワードは「親子上場」です。
「親子上場」とは親会社が支配権を維持した状態で子会社が上場することです。パナソニックとパナホームの関係も「親子上場」です。
一般的に「親子上場」は望ましくない資本政策だと言われています。なぜなら、「親子上場」は子会社が親会社の利益のために行動するのか、または少数株主の利益のために行動するのかという利益相反の問題をはらんでいるからです。強い立場にある親会社の利益が優先され少数株主の利益が損なわれる可能性が「親子上場」にはあります。
今回のパナソニックによるパナホームの買収は子会社買収による利益相反の代表例と言えます。なぜなら、パナソニックはパナホームの株をできるだけ安く買いたいのに対して、その他の少数株主たちはできるだけ高く売りたいからです。オアシスが指摘したのもパナホームの企業評価が不当に低く見積もられているのではないかという点でした。
オアシスに対するパナソニック側の反論
一方、オアシスの批判に対してパナソニック・パナホーム側も親子上場に不合理性があることを理解した上で独立性のある第三者からの株価の算定と助言を得たと主張しています。実際にパナホームは独立した第三者であるプルータス・コンサルティングから株価算定に対する「フェアネス・オピニオン」を得ています。
コーポレートガバナンス 少数株主の保護
少数株主の利益を保護するために東京証券取引はコーポレートガバナンス・コードにおいて以下のような原則を定めています。
‐コーポレートガバナンス・コード・基本原則‐
1. 上場会社は、株主の権利が実質的に確保されるよう適切な対応を行うとともに、株主がその権利を適切に行使することができる環境の整備を行うべきである。また、上場会社は、株主の実質的な平等性を確保すべきである。少数株主や外国人株主については、株主の権利の実質的な確保、権利行使に係る環境や実質的な平等性の確保に課題や懸念が生じやすい面があることから、十分に配慮を行うべきである。
コーポレートガバナンス・コードにある通り、形式ではなく実態をもって企業統治を行うことが重要です。パナソニックによるパナホームの完全子会社化に対して実態をもってガバナンスが行われているのか疑問が投げかけられました。
企業統治の遂行が日本企業の課題
今回はパナソニックによるパナホームの完全子会社化を通してコーポレートガバナンス、特に少数株主の保護について解説してきました。そもそも、コーポレートガバナンス・コードは日本企業が資本市場において国際的な競争力を高めるために作られた枠組みです。コーポレートガバナンス・コードに準拠した企業統治は日本企業の課題と言えるでしょう。
現在、日本には多く「親子上場」の会社があります(2016社)。今後の親子上場している企業の動向に要注目です。
編集者:株式会社mannaka
協賛 :株式会社エスネットワークス
財務・会計系コンサルティング会社。
ベンチャー企業やローカル企業にCFOコンサルティングを行っています。
「経営者の輩出」を企業理念とし会計や財務の実務支援能力だけでなく、 CFOとして求められる知識や経営センスをより短期間で身に付け、育成することを目指しています。
エスネットワークスは、「経営者の視点でニーズを掴み、経営者の視点で課題を解決し続ける、最強パートナー」を実現すべく、成長し続けています。
エスネットワークスのサイトはこちら
株式会社エスネットワークス
mannakaのサイトはこちら
株式会社mannaka