上場企業に課せられる禁忌 「虚偽掲載」に関する金商法と上場規則とは?

日経平均の記録的高値、日本経済に明るさか

日経平均株価が1961年以来の14日連騰で最長記録と並び、終値2万1457円64銭で1996年10月18日以来の高値を付けました(2017年10月20日現在)。この20年以上もの間、日本経済は低迷し「失われた20年」と言われてきましたが、日経平均株価の記録的高値に象徴されるように最近は明るい兆しが見え始めてきたかのように感じられます。
 
ただし、実体経済と日経平均株価の乖離は否めず、必ずしも両者を短絡的に結びつけることはできないことを考慮しておかなければいけません。
 

上場企業に重く課せられる信用秩序の責任

そのような日本経済の金融を支えてきた全国の証券取引所には、現在約3,700社が上場しており、1989年以降で計3,100社強が新規上場(IPO)しました。しかし同年以降、上場廃止した企業も約1,650社に達します。この上場廃止した企業の中には西武鉄道(2004年上場廃止)やカネボウ(2005年上場廃止)も含まれており、同2社が上場廃止した要因の一つは有価証券報告書等の虚偽記載を行ったことでした。
 
健全な証券取引なくして健全な経済の発展はありえません。今回は証券取引所の信用秩序を担保する、有価証券報告書等の開示ルール(金融商品取引法や取引所規則など)に焦点を当てて解説します。
 

虚偽記載がある有価証券報告書等の発行企業に課される罰則

証券取引所など流通市場において、虚偽の情報を記載した有価証券報告書等*1を提出した企業は、金融商品取引法で以下に定められている罰則を受けることになります。
 
*1 有価証券報告書等…有価証券報告書など、金融商品取引法が上場企業に対して継続的に提出・開示を義務付けている書類
 

虚偽記載がある有価証券報告書等の発行企業に課される課徴金

重要な事項につき虚偽の記載がある有価証券報告書を発行した企業は以下の2つの金額のうち、より高い金額になる方を課徴金として国庫に支払わなければなりません。
 

  1. 発行済株式などの市場価格の総額の6/10万
  2. 600万円

 

虚偽記載がある有価証券報告書等の発行企業および個人に課される刑事罰

また、虚偽記載が特に重大である時は企業(法人)および企業の役員等の個人が告発され、金融商品取引法の中でも特に重たい以下の刑事罰が科されます。
 

  1. 役員などの個人:10年以下の懲役若もしくは1,000万円以下の罰金、またはこれらの併科
  2. 企業(法人):7億円以下の罰金

 

虚偽記載がある有価証券報告書等の発行企業および個人の株主に対する責任

虚偽記載がある有価証券報告書等の発行企業の株主に対する責任

虚偽記載がある有価証券報告書等の発行企業の株主に対する責任を負う場合

公衆縦覧される有価証報告書等の開示書類に虚偽記載があった以下の場合に発行企業は賠償責任を負わなければいけません。
 

  1. 重要な事項について虚偽の記載がある場合
  2. 記載すべき重要な事項もしくは誤解を生じさせないために必要な重要な事実の記載が欠けている場合

 

虚偽記載がある有価証券報告書等の発行企業の株主に対する賠償責任

有価証券報告書等の発行企業が「虚偽掲載をした」という事実を公表した際、当然ながら発行企業の株価は下落します。その際、発行企業の株主は予期せぬ形で発行企業に被害をもたらされたことになります。したがって、発行企業は株主に対して金融商品取引法に基づいて以下の賠償額を支払う責任があります。
 

賠償責任の上限規定:証券価格の下落分

損害賠償額の推定規定:公表前1ヶ月の市場価格平均−公表後1ヶ月の市場価額平均

 

虚偽記載がある有価証券報告書等の発行企業の個人の株主に対する責任

有価証券報告書等に虚偽記載などがあった場合は、その発行企業の役員、公認会計士および監査法人つまり法人ではなく個人も賠償責任を負う場合があります。
 

  1. 有価証券報告書等のうちに重要な事項について虚偽の記載がある場合
  2. 記載すべき重要な事項もしくは誤解を生じさせないために必要な重要な事実の記載が欠けている場合

 

請求権者

現在の金融商品取引法によると、上述の賠償責任を発行企業に対して請求できる者は当該発行企業の「株式の取得者」と「株式の処分者」です。
 
ただし、上記で挙げた損害賠償額の推定規定は公表日に所有する者のみに適用されます。一方、株式の処分者の場合は「処分額−取得額」となります。
 

東京証券取引所上場規定の定める有価証券報告書等の虚偽記載規則

証券取引所に上場している企業は金融商品取引法だけではなく、上場しているそれぞれの証券取引所の上場規定も遵守しなければいけません。日本で代表的な証券取引所である東京証券取引所一部の上場規定では、有価証券報告書等の虚偽記載は上場廃止基準の一つになっており以下に定められています。
 

a.有価証券報告書等に虚偽記載を行った場合であって、直ちに上場を廃止しなければ市場の秩序を維持することが困難であることが明らかであると当取引所が認めるとき

又は

b.監査報告書又は四半期レビュー報告書に「不適正意見」又は「意見の表明をしない」旨等が記載された場合であって、直ちに上場を廃止しなければ市場の秩序を維持することが困難であることが明らかであると当取引所が認めるとき

 
このように「虚偽記載」か「不適正意見等」のどちらかが該当する上で、市場の秩序を維持することが困難であるか否かが論点になります。実際に冒頭で挙げた西武鉄道とカネボウは虚偽記載が一因となり上場廃止になりましたが、虚偽記載が発覚したIHIやオリンパスは上場廃止に至っておりません。
 

厳格なルールに支えられた公正な証券取引

ここまでで扱った金融商品取引法と東京証券取引所上場規則から、厳格なルールによって形成された信用秩序が日本の金融を支えてきたことが分かりました。昨今では、実際に有価証券報告書等の虚偽記載があった東芝が上場廃止に至るのか注目されましたが、上場維持との判断が下されました。しかし、これ以上金融の根幹である信用を揺るがす事案が生じ、日本経済の成長に水を差すことが無いよう願われます。
 
 
参考文献等

 
 
 
編集者:株式会社mannaka
協賛 :株式会社エスネットワークス
 

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