JR九州上場へ なぜ? 経営・財務戦略で「成長路線」に乗り換えか

はじめに

九州旅客鉄道株式会社(以下、JR九州)が2016年10月26日に東証1部に上場しました。また26日には福証にも上場する予定です。売り出し価格は2,600円/株で時価総額は4,600億円と、近年ではLINE(3938)に次ぐ大型の新規株式公開(IPO)案件でした。
 
東日本旅客鉄道株式会社(以下、JR東日本)は既に東証一部の常連企業なのに、なぜ同じJRの会社がこれから上場するのか不思議に思った方もいるのではないでしょうか?今回は、JR九州が上場に至る背景について解説していきます。
 

JR九州の概要

JR九州、赤字路線が重荷に

JR九州は、1987年に旧日本国有鉄道の分割民営化によって発足しました。JR九州はJR北海道、JR四国と合わせてJR三島会社と呼ばれ、本州三社(JR東日本、JR西日本、JR東海)とは違って、ローカル線から成る数多くの赤字路線を抱える会社でした。
 

JR九州、経営安定基金で資産運用が認められている

その為、JR九州をはじめJR三島会社には経営安定基金の運用益で赤字を埋めることを国から認められています。
 

JR九州、非鉄道事業と資産運用益で赤字路線をカバー

下の図を見てみると、JR九州は毎年赤字を出している鉄道事業の営業利益を非鉄道事業の営業利益で何とか補って、全事業における営業利益を何とか黒字にしているのが現状です。

また、経常利益については毎年黒字を達成していますが、その殆どは営業利益からではなく、JR九州が国から運用益を計上することを認められている経営安定基金の収益です。
 
しかし、近年は世界的な低金利のために運用益は縮小しつつあります。JR九州は運用益で賄うはずだった鉄道事業の赤字も非鉄道事業で今まで以上に補っていく必要が出てきています。その為、JR九州は事業の多角化を積極的に推し進め、現在では、運輸サービス・建設・駅ビル・流通・外食・観光レジャー・ビジネスサービスなどの領域で続々と事業運営を行ってきています。
 

Table JR九州の損益計算書
 

JR九州、上場の目的とは?

今回のJR九州の上場は、そういった新規事業に用いる資金を、返済の必要がある負債ではなく、自己資本で賄うのが目的と推定されます。
 

JR九州の取り組み

JR九州、経営安定基金を鉄道事業へ

JR九州は、上場に当たって経営安定基金を国に返還すべきか議論もありましたが、最終的に返還せずに基金を取り崩し、鉄道事業の収益改善に使われることになりました。取り崩した基金は新幹線貸付料の一括返済に使われました。
 

JR九州、経営安定基金で財務体質改善・強化へ

実は、JR九州は新幹線の設備を鉄道・運輸機構から借りており、当機構からの貸付料は年102億円という巨額の費用が発生していました。そこで取り崩した基金を使って将来の貸付料を前払いしました。借入金の一部返済も行なっているため利払い負担も減りました。さらにJR九州は鉄道事業の固定資産の減損も行い、将来に渡って行なわれる鉄道の構築物や機械設備の減価償却を先取りしました。
 
こうした財務面での施策により鉄道事業の収支は大きく改善し、利益の出る体質に転じそうです。
 

JR九州の事業戦略、インバウンド需要取り込みなどで新収益源

一方、事業戦略の面では、JR九州の2016~2018年にかけての中期経営計画を読んでみると、新たな収益源を創ろうとする同社の試みが読み取れます。
 
まずJR九州は、豪華寝台列車「ななつ星in九州」や、旅行代理店・航空会社と連携してインバウンド需要に取り組みます。また、福岡周辺(六本松・博多駅)、長崎駅周辺、熊本駅周辺、大分駅周辺、南九州のまちづくりにも挑む予定です。これらの地域では、駅ビル・ホテル・マンション・外食などのサービスを展開していきます。さらに、JR九州が得意としてきた上記のような事業を海外に輸出していく方針も読み取れます。
 

JR九州の未来と残る課題

一方で課題もあります。JR九州は事業が軌道に乗るまで税の優遇処置を国に求めています。また経営安定基金の件もあり、赤字路線を抱える鉄道事業を廃止するかどうかは、その是非について議論が沸き起こっています。現状、JR九州は今のところ赤字路線の廃止の予定はないとしていますが、今後はどうなっていくのでしょうか。
 
それだけではありません。現状、社員数と利益については東証一部上場の形式要件を満たしていますが、JR九州は、現実にはどこの市場に上場するのか、というトピックもあります。そして、今後のJR九州はどういう戦略を国内外で展開していくのかという点も気になります。
 
JR九州の経営陣には難しい意思決定が今後待ち構えていそうです。話題が尽きないJR九州の動向を今後も注視していきたいです。
 
 
編集者:株式会社mannaka
協賛 :株式会社エスネットワークス
 

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