アントレプレナーとは?求められる資質、スキルについて

日本の習慣的な雇用制度が崩れつつある今、さまざまな働き方に注目が集まっています。
起業や独立を目指す人の中には、「アントレプレナー」という言葉を耳にしたことがある人も多いのではないでしょうか。
本記事では、最近のビジネスシーンで話題に上ることが増えたものの、まだまだ市民権を得ているとはいえないアントレプレナーについて意味や類語から解説し、求められる資質やスキル、育成のためにどのような教育が行われているのかまで紹介します。
この機会に、これまでの日本式ビジネスに新しい風を吹き込むといわれるアントレプレナーについて、理解を深めてみませんか。
 

アントレプレナーの意味や類語について


はじめに、「アントレプレナー」を正しく理解するために、意味や語源を解説します。
混同しやすい「イントレプレナー」や「シリアルアントレプレナー」といった類語との違いも押さえておきましょう。
  

アントレプレナーの意味は「起業家」

「アントレプレナー」とは、ゼロから事業をおこす「起業家」のことで、「アントレプリナー」や「アントルプルヌール」といわれることもあります。
語源は、 “~の間に”の意味する“Entre(アントレ)”と、“請け負う人”という意味の“preneur(プレナー)”が合わさった「Entrepreneur」というフランス語です。元々は仲買人や貿易商といった意味で使われていましたが、時代とともに英語に転用され、「起業家」の意味で世界中に広まったといわれています。
アントレプレナーは、“まったく土台がない状態から事業を起こす人”を指しているため、“先代から事業を引き継いだ経営者”のようなケースは含まれません。
  

類語1 「イントレプレナー」は社内起業家

「イントレプレナー」とは、所属する企業の支援を受けて新規事業を立ち上げる人のことで、一言で表すと「社内起業家」です。
会社から独立して起業するか否か、という点でアントレプレナーとは一線を画します。
イントレプレナーには、会社に所属しながら事業を始められるというメリットがありますが、会社の方針や指示などと折り合いをつけながら起業するという難しさがあるため、より調整力が求められます。
  

類語2 「シリアルアントレプレナー」は連続起業家

“シリアル(serial)”には“連続的な”という意味があり、アントレプレナーの中でも、“連続して起業する”アントレプレナーは「シリアルアントレプレナー」と呼ばれます。
多くのシリアルアントレプレナーは、新しい事業を立ち上げ、軌道に乗せては売却・譲渡し、新たに事業を立ち上げていきます。
これまでの日本では、事業の売却・譲渡は、事業がうまく立ち行かなくなった場合に取られることが多い方法でした。しかし、起業先進国の米国では、GoogleによるYouTubeの買収や、ウォルト・ディズニー社の完全子会社となったピクサーなどのような事例が数多く見られることもあって、日本でもチャレンジ精神旺盛なシリアルアントレプレナーが増えています。
 

アントレプレナーに求められる資質やスキル


多くの人が夢を抱いて起業しますが、全ての人が成功するわけではありません。成功しているアントレプレナーの共通点を知ることで、どのような資質やスキルが必要なのかが見えてきます。
成功するアントレプレナーに共通する5つのポイントをおさえておきましょう。
  

イノベーションを生む創造性

現代のビジネスシーンは、技術革新やグローバリゼーションの流れも手伝って、製品のライフサイクルが短い傾向にあります。そのため、以前にも増して、顧客のニーズや市場動向に敏感に反応できて、新しい市場を開拓していく能力が必要とされるようになっています。
アントレプレナーには、日常のさまざまなことに目を光らせ、ビジネスチャンスに変えられる創造性が求められています。
  

人的ネットワーク

どんな仕事においても、人脈が大切なことは多くの人が感じていることですが、特にアントレプレナーには、幅広い人的ネットワークが必要です。
起業すると、さまざまな困難に直面することでしょう。そんなとき、いろいろな立場や考え方の人から、どれだけ多くのアドバイスや率直な意見をもらえるかが、起業の成功を大きく左右する一因ともなります。
豊富な人的ネットワークが、困難を乗り越えるための大きな原動力となり、助けとなるはずです。
  

マネジメント能力

新たな事業を立ち上げるときには、既存のルールや考え方などにとらわれない方法で組織を作り上げるケースも多く見られます。チームマネジメントにおいては、前例がなく先が読めない状況の中でも、適切に個人や組織を管理する能力が必要です。
新しい理念の下、志をともにする人たちが集まったチームで、マネジメント能力に優れたアントレプレナーがリーダーを務めれば、より成功の可能性が大きくなることでしょう。
  

リーダーシップ

チームが一丸となって事業を作り上げていくためには、強いリーダーシップが欠かせません。
リーダーシップはマネジメント力の一部ともいえますが、ただ穏便にことを進めるだけでは、チームの大きな前進は見込めません。困難な局面でも誰かのせいにせず、自らが責任を負って行動できることや、失敗も次のステップへの必要要素だとチームを奮起できることこそ、真のリーダーシップではないでしょうか。
メンバーから「この人のためなら」と思ってもらえるアントレプレナーであれば、自ずと事業も成功に向かうはずです。
  

あきらめない精神力と自信

新たなことにチャレンジするときに、失敗はつきものです。「失敗は成功の母」と言われますが、ひとつの成功の陰にはいくつもの失敗があるものです。失敗を失敗のまま終わらせてしまうのか、失敗を活かして新たに前を向くことができるのかが成功への分かれ道でしょう。
また、失敗してしまったときには自信を失ってしまいがちですが、「自分は絶対にやり切れる」と信じることや、自分の会社には素晴らしいメンバーが集まっていることに自信を持つことが重要です。
アントレプレナーとして事業を立ち上げた以上、あきらめない精神力と確固たる自信を持って挑み続けることが、成功を掴む一手となるでしょう。
 

アントレプレナーシップ教育とは


これまでに紹介したアントレプレナーに必要なマインドは、「アントレプレナーシップ」と呼ばれます。
日本人は与えられた仕事をこなすことは得意ですが、ゼロから何かを生み出すことにはあまり慣れていないといわれています。そのため、近年ではアントレプレナーシップを持った人材の育成を目的とする「アントレプレナーシップ教育」に注目が集まっています。
  

海外のアントレプレナーシップ教育事情

ヨーロッパや欧米、中国などでは小学生からお金の価値や「稼ぐ」ことについて学びます。中高校生になると、起業の魅力について具体的に学ぶなど、積極的に教育プログラムに取り組み、起業を身近なものと感じられる環境が整っていることが伺えます。
大学では、より高度な教育が行われています。中でも先進的なアントレプレナーシップ教育を行っていると評判なのは、トヨタ自動車社長の豊田章男さんや、イオン社長の岡田元也さんなども学んだ、米国マサチューセッツ州のハブソン大学でしょう。
「学生は全員起業しなければならない」という斬新なプログラムを採用しており、教師は学生のベンチャー立ち上げに協力するという教育方針を掲げています。
  

日本のアントレプレナーシップ教育の事例

日本では、立命館大学が2005年に「産学共同アントレプレナー教育プログラム」を開始しました。東京大学では起業に必要なことを学べる「アントレプレナー道場」が開催されたり、2014年には早稲田大学でも、グローバルリーダーの育成を目的とした「グローバルエデュケーションセンター(GEC)」を設立したりと、高等教育機関を中心にアントレプレナーシップ教育が広がり始めました。
近年では、小学生を対象にアントレプレナーシップ教育プログラムを実施する民間教育機関の動きも見られるなど、子どもの頃から起業を身近に感じるような働きかけも始まっています。

文部科学省も、2017年から「次世代アントレプレナー育成事業(EDGE NEXT)」として、全国各地の大学などから公募して通過した起業やイノベーション創出に挑戦する人材育成プログラムに、年間3,000万円~5,000万円程度を支援する事業を行うなど、日本でも徐々にアントレプレナーシップを学べる環境が整いつつあります。
 

まとめ


近年まで日本ではなじみの薄かった「アントレプレナー」について、正しい意味や求められる資質、教育の現状までを詳しく紹介してきました。
コロナ禍によって生活が一変した世の中では、これまでにないビジネスの視点が必要とされています。今こそ、アントレプレナーが求められる時代かもしれませんね。